26年10月、106万円の壁撤廃へ。130万円の壁もわかりやすく解説

2025年07月23日
106万円の壁撤廃

2026年10月、社会保険にかかわる「年収106万円の壁」が撤廃され、パートやアルバイトなどの短時間労働者が社会保険に加入しやすくなる見込みです。

社会保険の加入者の拡大は、年金や医療の保障が手厚くなる一方で、保険料の負担が増える大きな改革です。労働者と使用者、それぞれの立場で不安を感じている方は多いことでしょう。

 【この記事でわかること】

  • 社会保険にかかわる年収の壁「106万円の壁」「130万円の壁」とは?
  • 106万円の壁が撤廃されるとどうなる?いつから?
  • 130万円の壁との違い、関係は?
  • 会社が対応すべきことは?

「年収の壁」の概要と種類

年収の壁とは、特定の年収を超えると、税金や社会保険の負担が発生し、手取り収入が減ってしまうボーダーラインを指します。

日本の制度には複数の「壁」があり、特にパートやアルバイト労働者は、この壁を超えないように「働き控え」をすることがあります。

働き控えは労働者の収入が上がらないだけでなく、企業にとっては人手不足の要因になります。政府は労働者が年収の壁を気にせず働けるようにするための対策を強化し、経済の活性化と社会保障制度の安定した運用を目指しています。

年収の壁の種類

年収の壁は「税金にかかわる壁」と「社会保険にかかわる壁」に大別できます。

【2025年10月時点 主な年収の壁一覧】

税金
の壁
社会保険
の壁
内容
103万円家族(親)が扶養控除を受けられる上限
※2025年10月廃止、123万円に引き上げ
 106万円従業員数51人以上の会社など、社会保険
(健康保険や厚生年金保険)への加入義務が発生
※2026年10月に撤廃予定
110万円本人に住民税の支払いが発生
(自治体によって異なる)
123万円家族(親)が扶養控除を受けられる上限
※2025年所得から
 130万円家族(親)の社会保険の扶養から外れ、
国民健康保険などへの加入義務が発生
(19歳〜23歳未満を除く)
150万円19歳〜23歳未満の家族(親)が扶養控除を満額受けられる上限。
以降、減少する
※2025年所得から
150万円19歳〜23歳未満は家族の社会保険の扶養から外れ、
国民健康保険などへの加入義務が発生
※2025年所得から
160万円本人に所得税の支払いが発生
※2025年所得から
160万円 家族が配偶者特別控除を満額受けられる上限
※2025年所得から
188万円19歳〜23歳未満の家族(親)の扶養控除がゼロになる
※2025年所得から
201万円 配偶者特別控除が対象外になる

この記事では社会保険にかかわる壁「106万円の壁」と「130万円の壁」について、解説します。

106万円の壁(2026年10月撤廃予定)

「106万円の壁」は、社会保険(健康保険や厚生年金保険)への加入義務が発生する金額を指します。

現行の社会保険制度では、社会保険(主に会社員が対象)加入者の配偶者など、パートやアルバイトで収入が少ない人は「第3号被保険者」として保険料を負担せずに社会保険に加入できます。

その負担なく社会保険に加入できる上限が106万円であり、106万円を超えると、以下の条件に当てはまる労働者は、自ら保険料を支払って社会保険に入らなくてはいけなくなります。

関連記事:【担当者向け】社会保険の加入手続きに必要な書類、最新の加入条件を解説

社会保険は労働者と会社が折半して負担します。つまり年収が106万円を超えると労働者だけでなく、会社の保険料の負担も増えます

106万円の壁の撤廃 = 社会保険加入者の拡大

2025年(令和7年)6月、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が国会で可決されました。

今回の年金制度の改正にはいくつかのメニューがあり、その1つに「社会保険の加入対象の拡大」があります。

政府は働き控えによる労働力不足の解消や、より多くの人が社会保険に加入して将来の年金や医療保障を手厚くできるように、これまでの社会保険の加入条件を緩めることにしました。

社会保険の加入対象の拡大

  1. 月額賃金が88,000円(年収106万円)以上 → 撤廃
  2. 従業員51人以上の企業 → 段階的に撤廃

「1. 年収106万円」の条件は「最低賃金の様子を見ながら3年以内に撤廃」としていますが、昨今の最低賃金の上昇幅が続くなら、2026年10月には撤廃される見込みです。

関連記事:最新の岡山の最低賃金|そもそも最低賃金とは?基本から解説

「2. 従業員51人以上」の条件については、段階的に対象企業を拡大していき、2035年10月には10人以下のすべての企業の労働者が社会保険の加入対象になります。

出典:年金制度改正法が成立しました|厚生労働省

上記の変更の結果、以下の加入条件だけが引き続き残ります。

  • 週の勤務が20時間以上
  • 学生は加入対象外

つまり将来的には、勤め先の従業員数や賃金にかかわらず、学生ではない労働者が週に20時間以上働くと、社会保険へ加入することになります。

今後も社会保険料を払いたくない労働者は、2026年10月以降は「週20時間」を超えないように、労働時間を調整することが予想されます。106万円の壁はなくなりますが、新たに「週20時間の壁」ができるということです。

※ 5人以上の労働者を雇う個人事業主の事業所の場合、これまで社会保険対象外だった一部の業種(農林水産業、サービス業など)も2029年10月から対象になります(5人未満の個人事業所は引き続き対象外です)。

社会保険加入拡大への支援

106万円の壁が撤廃され、社会保険の加入者が拡大することで、労働者と事業主、それぞれの負担が増えることになります。

そのため政府は、新たに社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象になるパートやアルバイト労働者に対して、3年間、事業主が追加で負担することで、社会保険料の負担を軽減できる特例措置を行うとしています。

出典:年金制度改正法が成立しました|厚生労働省

本来、社会保険料の負担は労働者と事業主の折半(50:50)ですが、例えば年収106万円の場合、労働者の保険料の負担は25%のみとなります。

またこの特例で事業主が追加で負担した保険料は、国などがその全額を支援するとしています。

その他、後述する「年収の壁・支援強化パッケージ」も別途用意されています。

130万円の壁

上記のとおり、これまでは第3号被保険者が「従業員51人以上の企業」「月額賃金が88,000円(年収106万円)以上」「週の勤務が20時間以上」などの条件をすべて満たすと、家族の社会保険の扶養から外れて、勤め先の社会保険への加入義務が発生しました。

一方でこれらの条件を満たさない労働者でも年収が130万円を超えると、条件にかかわらず家族の社会保険の扶養から外れます。

扶養から外れると何らかの保険・年金に加入しなければいけなくなります。この条件に該当する労働者は会社に社会保険がなかったり、入れないことがほとんどで、多くが国民健康保険に自身で加入することになります。これを「130万円の壁」と言います。

2025年現在の条件だと、例えば従業員10人の会社(社会保険の対象外)で働いている場合、年収106万円を超えても社会保険の扶養から外れませんが、年収130万円を超えると外れます。

【原則】106万円の壁廃止後も130万円の壁は残る

106万円の壁と混同されてか、「130万円の壁がなくなるのはいつから?」と質問されることが増えました。

結論、106万円の壁が廃止され「週20時間の壁」ができた後も、130万円の壁は残ります。

つまり労働時間を週20時間以内に抑えたとしても、年収が130万円に達してしまうと、社会保険の扶養から外れることになります。

今後、労働者は「週20時間」と「年収130万円」を意識して働くようになることが予想されます。これまで以上に130万円の壁の重要度が高まることになりそうです。

【19歳〜23歳未満】年収150万円まで扶養内で働けるように

原則は年収130万円を超えると、社会保険の扶養から外れますが、2025年(令和7年)10月以降は、19歳以上23歳未満の要件が「年収150万円未満」に変更されました。

主に大学生などの若者の税金や社会保険の扶養の条件を緩和することで、手取りを増やし、また人手不足を解消する狙いがあります。

関連記事:25年10月、大学生が150万円まで働けるように|特定親族特別控除など

社会保険の加入促進策、従業員の働き方に対する支援策

年収の壁の改革が進む中、2023年10月から、パートやアルバイト労働者が年収を意識せず働けるようにするため、政府は労働者と事業主、それぞれに対して支援する「年収の壁・支援強化パッケージ」を展開しています。

① キャリアアップ助成金 「社会保険適用時処遇改善コース」

パートやアルバイト労働者に対して、以下、いずれかの取り組みを行ったときに、事業主に助成されます。

  • 新たに社会保険の加入対象になった労働者の賃金総額を増額させるための取り組み(手当支給・賃上げ・労働時間延長)を行った場合
  • 週の所定労働時間を4時間以上伸ばすなどして、社会保険に加入させた場合

1人あたりの助成額は以下のとおりです。

② 社会保険適用促進手当

事業主が新たに社会保険に加入した労働者の手取り収入を減らさないよう手当を支給した場合、本人負担の保険料相当額を上限に社会保険料の算定対象から除外されます。つまり、手当分は保険料の計算に含まれず、従業員の手取り収入が減少しにくくなります

社会保険適用促進手当の支給は、上記①のキャリアアップ助成金の助成対象となります(1年目・2年目のみ)。

③ 130万円の壁への対応(事業主証明による被扶養者認定)

パートやアルバイト労働者向けに、繁忙期に働くことで一時的に収入が増え、うっかり年収が130万円に達してしまったとしても、扶養にとどまれる制度が用意されています。

年収が130万円を超えてしまった場合、事業主(会社)が「この収入は一時的なものである」という証明書を作成して、家族(夫など)が加入している健康保険組合などに提出することで、引き続き、社会保険の扶養にとどまれるというものです。

ただし以下の注意点もあります。

  • 原則、連続2年まで適用される
  • 最終的に扶養にとどまれるかの判断は家族が加入する健康保険組合などで行われるため、必ず認められるとは限らない

106万円の壁撤廃で企業経営者・担当者が準備・対応すること

今回の改定で企業の経営者や人事労務担当社など、会社側が対応すべきことをまとめます。

自社の立ち位置の把握

社会保険の加入要件が拡大されることで、自社にどのような影響があるのか、また、いつから対応しなければいけないのか、確認します。

  • 今の従業員数だと、いつから適用されるのか
  • 該当しそうな従業員はいるか など

従業員への丁寧な説明

「年収の壁」の改定は内容が複雑で理解するのが難しいと感じる従業員もいます。経営者や担当者が変更点を理解し、従業員へ丁寧に説明して不安を解消できるように努めます。

従業員には社会保険に加入するメリットや、社会保険料の半分は会社も負担することを説明するなど、納得して加入してもらうことが大切です。

▼従業員への説明時に参考になるツール

雇用契約書の見直し

社会保険に加入することで手取りが減る従業員に対しては、希望に応じて出勤日数や労働時間を増やすなど対応することが望まれます。労働条件が変わる場合は、雇用契約書を改めて作り直します。

社会保険の加入手続き

従業員が新たに社会保険に加入する際は年金事務所へ届出を行います。

関連記事:【担当者向け】社会保険の加入手続きに必要な書類、最新の加入条件を解説

また、就業規則や賃金規定(評価制度)などを変更する必要がないか、併せて確認します。

年収の壁に関して従業員からよくある質問

以下、労働者が抱えがちな年収の壁に関する代表的な疑問や悩みをまとめています。

週の労働時間20時間に残業時間は含まれるのか?

含みません。労働条件通知書などでかわされた契約上の労働時間で判断されます。ただし、2ヶ月連続で週20時間を超え、今後も超える見込みである場合は、社会保険の加入対象になります。

Wワークでそれぞれの労働時間を週20時間以内に収めれば社会保険に加入しなくてもいい?

はい。社会保険の加入対象外です。例えばA社で週19時間、B社で週19時間、合計に週38時間労働した場合でも、1社で週20時間を越えなければ、社会保険への加入義務はありません。

Wワークで合計の年収が130万円を超えると扶養から外れる?

外れます。各職場からの収入を合算して130万円を超えると、家族の社会保険の扶養から外れます。

106万円・130万円の壁の対象になる報酬はどれか。交通費は含まれる?

106万円の壁は「基本給と諸手当」で、130万円の壁は「標準報酬月額」で計算されるため、対象の報酬の範囲が異なります(以下「◯」が対象)。

項目106万円の壁
(撤廃予定)
130万円の壁
基本給
諸手当
(皆勤手当、
職務手当など)
賞与
(ボーナス)
対象外
通勤手当対象外
家族手当
通勤手当
対象外
時間外手当
休日手当
対象外

関連記事:【最大75万円】厚生年金保険の標準報酬月額の上限が引き上げへ。影響と対策

130万円の壁で社会保険の扶養から外れるのは具体的にいつから?

見込み年収が130万円を超えると判断されたタイミングで扶養から外れます。

  • 2ヶ月または3ヶ月連続で月収が10万8,333円を超えるとき
  • 3ヶ月の平均月収が10万8,333円を超えるとき
  • 過去12ヶ月の月収の合計が130万円を超えるとき など

社会保険に加入するときは扶養から外れたと判断された日から5日以内、国民健康保険に加入するときは14日以内に手続きします。

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    参考資料

    この記事の執筆者
    まき社会保険労務士事務所 代表
    社会保険労務士 牧 あや