【事例あり】カスハラ対策が義務化へ。企業がすべき取り組みとは?

顧客や取引先からの不当な言動や要求を指す「カスタマーハラスメント」が増えていることを受け、2025年6月、企業にハラスメント対策を義務化する法案が可決・成立しました。
今後はすべての企業が適切なカスタマーハラスメント対策を行うことを求められるようになります。
【この記事でわかること】
- カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義
- カスハラ対策の義務化とスケジュール
- カスハラ対策の具体例、進め方
目次
カスタマーハラスメントとは

出典:厚生労働省
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先などが企業の従業員に対して、常識的に許される範囲を超えた、不当な言動や要求を行うことを指します。
暴言、過剰なクレーム、理不尽な要求などのカスハラは、従業員の就業環境を悪化させます。
日本は古くから「サービスを受ける客側の立場が上」という考え方が根強く、カスハラが起こりやすい環境であったことは否めません。
それに加えて、過剰なサービス水準が顧客の期待を高めていること、コロナ禍や経済不安、人とのつながりの希薄化、SNSの普及などの社会背景が、カスハラの発展を助長しているとも言われています。
公的な定義
2024年11月、厚生労働省は労使などでつくる審議会において、カスハラを以下の3つの要素をいずれも満たすものとして、示しました。
- 顧客や取引先、施設利用者、そのほかの利害関係者が行うこと
- 社会通念上相当な範囲を超えた言動であること
(顧客の言動が契約の内容的に相当性を欠くもの、手段や態様が相当でないもの) - 労働者の就業環境が害されること
(労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業する上で見過ごせない支障が生じること)
どこからがカスハラなのか(具体事例)
カスハラと見なされる可能性が高い言動には、以下のようなことが挙げられます。
- 身体的な攻撃(暴行、傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
- 土下座の要求
- 継続的、しつこい言動
- 不退去、居座り、監禁
- 差別的・性的な言動
- 相当性に欠く商品交換・金銭補償・謝罪の要求 など
これらの行為を行った顧客は損害賠償責任を負ったり、威力業務妨害や脅迫罪、暴行罪といった犯罪に該当する可能性もあります。
▼厚生労働省が企業12社に行ったヒアリングによるカスハラの分類例

クレームとの違い
先の審議会の中では、顧客などからのクレームがすべてカスハラに該当するわけではなく、「正当なクレーム」にも留意しなければいけないとしています。
本来、クレームとは顧客が商品やサービスに抱く不満、改善要求を指し、企業にとっては貴重なフィードバックになります。クレームへの誠実な対応により、企業はサービスの質を向上させることができます。
カスハラとの大きな違いは、社会通念上「不当であるか」「許される範囲か」「理不尽か」「攻撃的か」といった点で判断されます。
企業のカスタマーハラスメント対策の必要性
このように深刻化しているカスハラから、企業は以下のような不利益を被る可能性があります。
- 従業員の心身への悪影響
メンタルに不調を来す(PTSD・心的外傷後ストレス障害など)、離職の原因になる - 企業のイメージ低下
カスハラを受けた企業が評判や信頼を失う、SNSで拡散される - 生産性の低下
カスハラ対応に時間を割かれることによる生産性の低下、集中力・業務効率の低下 - 従業員からの訴訟リスク
安全配慮義務違反として従業員から訴訟を受けるリスク
代表、人事労務担当としては、これらのリスクから従業員を守り、ひいては企業の健全な経営のためにも、適切なカスハラ対策が求められます。
カスハラ対策の義務化(2025年6月改正)
2024年12月に厚生労働省が全ての企業に対してカスハラ対策を義務付ける方針を決めると、2025年6月に「労働施策総合推進法」の改正が可決・成立しました。
カスハラ対策は事業主の義務となります。早ければ2026年10月頃までに、以下で解説する対策が必要になります。
※法律の改正に先駆けて、2025年4月から東京、群馬、北海道などで、全国初のカスハラ防止条例が施行されました。
カスタマーハラスメント対策の進め方
厚生労働省は2022年に作成したカスタマーハラスメント対策企業マニュアルの中で、以下の基本的な取り組みを推奨しています。

基本方針の明確化、従業員への周知・啓発

出典:カスタマーハラスメントにおける対応指針 |イトーヨーカドー
企業としてカスハラをなくす、防止する方針を明確に示し、トップ自らが社内外に宣言することが重要です。従業員を守る、尊重するといった方針が明確になれば、従業員は安心して業務に取り組めます。
基本方針にはカスハラの定義、カスハラは自社にとって重大な問題であり毅然と対応すること、従業員を守る、人権を尊重するといった内容を盛り込むのが望ましいです。
従業員のための相談体制の整備
カスハラを受けた従業員が相談できる対応者(上司、管理監督者など)を決めたり、窓口を設置して、従業員に周知します。
実際にカスハラが発生している場合だけでなく、発生のおそれがある場合、カスハラに該当するか判断が難しい場合でも、気軽に相談に応じるようにします。
必要に応じて外部の専門家(弁護士など)と連携し、対応策をマニュアル化したり、相談対応者・窓口向けの研修を行うことも有効です。
カスハラ行為への対応、方法の決定
カスハラ行為を受けたときの、具体的な対応方法、手順を決めておくことは重要です。自社の業務内容、形態、方針などに応じて、様々な対応パターンを準備しておきましょう。
以下、具体的な対応例です。
行為 | 対応例 |
---|---|
長時間にわたり従業員を拘束する(電話を含む) | ・一定の時間を超える場合は、引き取りを願う ・電話を切る ・弁護士へ相談する ・警察へ通報する |
理不尽な要望を繰り返してくる(電話・面会) | ・次回は対応できない旨を伝える ・リスト化して通話内容を記録する ・弁護士へ相談する ・警察へ通報する |
怒鳴る、「馬鹿」などの侮辱的な発言、人格の否定・名誉を毀損する発言 | ・録音する ・退去を求める |
殴る、蹴る、叩く、物を投げつける | ・一定の距離を保ち安全を確保する ・複数名で対応する ・直ちに警察へ通報する |
「殺されたいのか」などの威嚇、反社との関係をほのめかす、「SNSにあげる」などの脅し | ・警備員等と連携を取り安全確保を優先する ・警察へ通報する |
自宅やカフェなどに呼びつける | ・単独では対応しない ・訪問する前にクレームの詳細を確認する |
SNS上、インターネット上での名誉毀損、プライバシー侵害 | ・削除を求める ・弁護士・警察に相談する ・発信者情報の開示請求をする |
社内対応ルールの従業員等への教育・研修
上記で決定した基本方針、カスハラへの対応方法・手順をもとに、従業員が対応できるよう、日頃から研修を通して教育を行います。可能な限り全員が、定期的に受講することが望ましいです。
実際にカスハラが起きたときの初期対応
カスハラが発生してしまったときの初期対応の一例を紹介します。
事実関係の確認と対応
カスハラに該当するか判断するために、従業員(または顧客)から、行為が事実であるか確認します。その際、録音や録画など、客観的な証拠を元に行います。
カスハラと認められた場合は、先に定めておいた「カスハラ行為への対応、方法」に沿って、対応します。
従業員への配慮
カスハラの被害を受けた従業員の安全確保や精神面への配慮を行います。
また上手く顧客対応した従業員を称賛したり、窓口対応者向けの懇親イベントを設け、息抜きや共感の機会をつくることも有効です。
再発防止の対策
カスハラは同じ様なことが繰り返し起こる可能性があります。カスハラを完全に予防することは難しいものですが、発生した事案をもとにカスハラ対策の方法・手順を定期的に見直します。
発生した事案は、社内で情報共有、注意喚起することで、再発防止につながります。
カスハラ対策で参考になるツールや例
▼行政によるツール
▼企業のカスハラに対する方針例
労働環境の整備について相談するなら、まき社会保険労務士事務所へ
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まき社会保険労務士事務所 代表
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