現物給与とは?社会保険や労働保険、税金との関係を初心者向けに解説

2026年05月11日
現物給与

人事労務の現場では「この現物の支給は福利厚生費になる?それとも現物給与として所得税や社会保険の対象になる?」というシーンが発生します。

現物給与は社会保険、労働保険、所得税や住民税などで考え方が異なり複雑で、判断に迷ってしまうことも多いです。

この記事では社会保険を中心に現物給与の基本をできるだけ簡潔に説明します。

現物給与とは、お金(現金)以外の形で支払われる給与・報酬のことです。

一般的に給与と言えば給料(現金)として支払われることがほとんどですが、会社が従業員に提供する食事、住まい(社宅)、通勤定期券など、労働の対価として提供されるものは給与と同じ様に扱われます。これを現物給与と言います。

現物給与は現金による支払いではありませんが、受け取る従業員にとっては経済的なメリットがあります。そのため、税金や社会保険料を計算する際は報酬の一部として取り扱わなければいけません。

つまり現物給与は「この従業員への利益提供は所得税や社会保険料の算定の対象になるか」という文脈で使われる言葉です。

正しく現物給与として処理されていなかった場合、過去に遡って社会保険料の追徴・源泉徴収がされたり、税務・社会保険の調査で指摘されることがあります。

現物給与の具体例

現物給与に該当する可能性がある代表的な例は、衣・食・住に関わる費用の肩代わりや、自社製品の提供などです。

現物給与と福利厚生費の関係

現物給与とよく一緒に使われる言葉に「福利厚生費」があります。

福利厚生費とは、従業員の生活向上や労働環境の改善のために会社が支出するものです。「働いた対価として支払う給与」とは目的が異なるため、原則として所得税や社会保険料の対象外です。

例えば同じ「食事の支給」でも、提供の条件次第で福利厚生費になるケースと、現物給与として課税・社会保険料の対象になるケースがあります。

福利厚生費として処理できれば、その分は従業員の給与(所得)に含まれないので、従業員の税負担や社会保険料が増えずに、実質的な手取りを増やせるというメリットがあります。会社側も、給与総額を増やさずに従業員の待遇を充実できるため、社会保険料削減が期待できます。

現物給与と手当の関係

一方で「食事の支給と食事手当はどっちがお得?」というように「手当」と比較されることも多いです。

手当は基本的に現金なので、必ず所得税・住民税、社会保険料などの計算対象になります。一方で現物給与は条件次第では非課税、社会保険料の対象外になる余地が残されます(後ほど詳しく説明します)。

従業員からの視点では、ざっくり、「福利厚生費が最も税・社会保険料の負担が少なく、手当が最も負担が大きい」と理解しておけばOKです。

現物給与の「価額」:所得税と社会保険料の違い

金銭以外の提供が「現物給与」に当たるときは、その「もの」を円の価値に換算する必要があります。

この換算をするときに所得税と社会保険料では全く異なるルールが用いられます。

  • 所得税法:原則、時価または会社が支出した実際費用が基準
  • 社会保険料:毎年4月に発表される「厚生労働大臣が定める価額」に基づき換算

以下ではこの大前提にもとづいて、「所得税」「社会保険料」「労働保険料」それぞれの現物給与にかかわるルールを確認していきましょう。

【所得税】における現物給与のルール

以下は主要な現物で支給される利益の非課税になる要件です。

項目条件
食事以下、いずれも満たす必要あり
従業員が食事代の50%以上を自己負担している
会社の負担額が月7,500円以下(税抜)
※令和8年4月に「月3,500円以下」から改正
社宅・寮固定資産税の課税標準額をもとに計算した「賃貸料相当額」の50%以上を従業員が負担していること

※著しく低い家賃での貸与は課税対象になる
通勤定期券1ヶ月あたり最大15万円(公共交通機関使用時)
自社製品の値引き取得価額以上、かつ通常販売価額の70%以上を従業員が負担していること
社員旅行以下、いずれも満たす必要あり
①旅行期間が4泊5日以内
②全体の50%以上が参加
③費用が社会通念上、相当な金額である
(「概ね10万円以下」とされることもあるがあくまで目安)

関連記事:25.11 通勤手当の非課税限度額が引き上げ。税、社会保険との関係

【社会保険】における現物給与のルール

続いて社会保険における現物給与のルールをまとめます。

【原則】現物給与は標準報酬月額に算入

従業員に食事や住宅などを提供したときは、原則としてその価額を標準報酬月額に算入する必要があります。

標準報酬月額とは?

従業員が会社から受け取る給与(基本給や各種手当など)を、区切りの良い幅ごとに等級(ランク)に分けて設定された金額。2026年4月現在、健康保険は全50等級、厚生年金保険は全32等級

関連記事:【最大75万円】厚生年金保険の標準報酬月額の上限が引き上げへ。影響と対策

2026年度(令和8年度)厚生労働省による現物給与の価額

上記の標準報酬月額に算入する際に用いる現物給与の価額は厚生労働大臣が定めることになっており、毎年4月に公表されます。

2026年度(令和8年度)の現物給与の価額は以下のとおりです。

食事による現物給与は2026年4月1日から、住宅による現物給与は2026年10月1日から適用されます。

出典:令和8年4月から現物給与の価額が改正されます|日本年金機構

「食事」の算定方法:「2/3ルール」

食事を現物給与として提供している場合は、上記の各都道府県ごとの価額をもとに計算しますが、従業員が費用の一部を負担しているかどうかで計算方法が変わります。

【現物給与価額の2/3未満を食事代として徴収している場合】

現物給与価額から徴収額を差し引いて標準報酬月額の算定に含める

例:岡山の事業所の場合

  • 1ヶ月の食事代の徴収額=5,000円
  • 1ヶ月当たりの現物給与価額=24,900円

24,900円 – 5,000円 = 19,900円(標準報酬月額に含める金額)

【現物給与価額の2/3以上を食事代として徴収している場合】

現物による食事の提供はゼロとみなす

例:岡山の事業所の場合

  • 1ヶ月の食事代の徴収額=20,000円
  • 1ヶ月当たりの現物給与価額=24,900円

この場合、標準報酬月額に算入する現物給与 = 0円

「住宅」の算定方法

住宅の現物給与については、食事のような「2/3ルール」はなく、厚生労働大臣によって定められた現物給与の価額から徴収額を差し引いた額が現物給与価額になります。

例:岡山の事業所、2026年9月まで、居室部分=15畳の場合

  • 1ヶ月の住宅費の徴収額 = 15,000円
  • 1ヶ月当たりの現物給与価額 = 20,400円(1,360円×15畳)

20,400円 – 15,000円 = 5,400円を標準報酬月額の算定に含める

2026年から住宅価額算定方法が変更

住宅の現物給与価額について、以下のとおり変更されます。

  • ① 2026年9月まで:居住面積1畳あたりの価額
  • ② 2026年10月から:総面積1㎡あたりの価額

特に広めの社宅を提供している場合は、標準報酬月額が上がり、企業・従業員ともに社会保険料の負担が増える可能性があります。

「その他の報酬」の算定方法

通勤定期券、自社製品など食事、住宅以外の現物給与は原則「時価」が現物給与価額とされています。現物給与価額から従業員からの徴収額を差し引いた額を標準報酬月額の算定に含めます。

例えば通勤手当のように 所得税では「非課税」であっても、社会保険料の計算では算入が必要なものもあるため注意が必要です。

固定的賃金の変動と随時改定(月変)

現物給与の価額改定や転居によって住宅価額が変更された場合などは、「固定的賃金の変動」になります。結果、これまでの標準報酬月額と比べて2等級以上の差が出たときなど条件を満たしたときは「随時改定(月額変更届、月変)」の対象になります。

【労働保険】における現物給与のルール

また労働保険における現物給与の考え方は、社会保険のものとは異なります。

【原則】条件付きで賃金総額に含める

労働保険の保険料は「賃金総額」をもとに計算しますが、現物給与も賃金に含まれます。ただし、以下の条件があります。

【現物給与として賃金に含む食事】

  • 住み込み労働者で1日2食以上提供されている
  • 上記以外では以下の3つすべてに当てはまるときのみ「福利厚生」として扱われる(1つでも当てはまらないときは、現物給与とみなされる)
    1. 食事の提供によって賃金が減額されない
    2. 食事の提供が労働協約、就業規則など労働条件として明記されていない
    3. 社会通念上、僅少なもの

【現物給与として賃金に含む住宅】

  • 住宅が提供されていない従業員には代わりに手当を支給している

1/3ルール

原則、労働保険では「労働者から負担金を徴収するものは賃金ではない」とされています。ただし、その徴収した金額が現物給与価額の3分の1以下であるときは、その差額分は賃金と見なされます。

参照:厚生労働省

実務上の注意点

最後に現物給与にかかわる実務上の注意点をまとめておきます。

労働協約の締結

大原則として労働基準法第24条において賃金は現金(通貨)で支払わなければならないと定められています。

そのため現物支給を行う場合は、労働協約を締結する必要があります。

一方で先述のとおり、例えば食事の提供が労働協約や就業規則に労働条件として定められている場合などは、労働の対価(給与)としての性質が強まるため、福利厚生として認められにくくなります。

税務と社会保険上の扱いの違い

この記事で説明してきたように所得税、社会保険料、労働保険料では現物給与の考え方や算入ルールが異なります。所得税では対象にならない現物給与が社会保険料の標準報酬月額に含まれるケースなどもあるため、個別に確認が必要です。

実務的な判断については迷う際は、専門家に相談することをお勧めします。

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    この記事の執筆者


    まき社会保険労務士事務所 代表

    社会保険労務士 牧 あや