【事業主向け】雇用保険のキホン 加入条件、手続きをわかりやすく解説

2025年04月07日
雇用保険 加入手続き

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従業員を1人でも雇う事業者は雇用保険に加入しなければいけません。

従業員の採用、退職時など、担当者が雇用保険の手続きをする機会は多いです。また、失業手当など従業員の生活に関わる保険であることからも、正しい基礎知識を身につけておきたいものです。

 【この記事でわかること】

  • 雇用保険とはどんな制度なのか
  • 雇用保険は誰が入らなければいけないのか
  • 従業員を雇用保険に加入させる流れ
  • 加入に必要な書類や手続き

雇用保険とは?

雇用保険は労働者(従業員)の生活や雇用の安定を目的とした公的な保険制度です。失業したとき、育児・介護で仕事を休むときなど、労働者が働けないときに一定額の給付が行われます。

雇用保険は後述する加入条件を満たす全ての従業員が加入しなければいけない保険制度です。事業主と労働者の両方が保険料を負担します。

雇用保険の役割と目的

雇用保険法第1条では以下の2つの役割と目的が定められています。

雇用保険というと「失業保険」のイメージが強いかもしれません。しかし上記の通り、雇用を安定させるために事業主に助成したり、労働者の教育訓練やスキルアップを行うことも、雇用保険の役割です。

雇用保険の給付内容

しかしほとんどの労働者にとっては「雇用保険にはどんな給付があるのか」が関心ごとだと思われます。主な雇用保険の給付は以下のとおりです。

給付の種類内容
基本手当(失業手当)失業した労働者への手当。再就職活動が条件
就職促進給付早期再就職を促進することを目的とした給付
– 再就職手当
– 就業促進定着手当
– 就業手当
– 移転費
– 広域求職活動費
– 短期訓練受講費
– 求職活動関係役務利用費 など
教育訓練給付制度労働者の能力開発、キャリア形成の支援を目的に、教育訓練経費の一部を支給する制度
雇用継続給付労働者の雇用継続を目的とした給付高年齢雇用継続給付介護休業給付
教育訓練給付金教育訓練を受けた際に、その費用の一部を給付する制度
育児休業等給付育児で休業する労働者を支援するための給付
– 出生時育児休業給付金
– 育児休業給付金
– 出生後休業支援給付金
– 育児時短就業給付金

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雇用保険と社会保険の違い、位置づけ

雇用保険と社会保険はいずれも労働者を保護することを目的とした制度です。

「社会保険」という用語は広義と狭義で使われることがあります。

広義で語られる場合、社会保険は5種類あり、雇用保険はその一部として位置づけられます。

広義狭義内容
1. 健康保険
(医療保険)
社会保険病気やケガを負ってしまった際、医療費の一部を負担することで医療を受けられる制度
2. 厚生年金保険企業の従業員や公務員が加入する公的年金制度。将来、国民年金保険に上乗せして年金を受けられる
3. 介護保険40歳以上が加入する、介護が必要になった際のサービス利用費の支援を受けられる制度
4. 雇用保険労働保険失業した際に失業手当や再就職支援の給付を受けられる制度
5. 労災保険業務中に事故や病気に遭った際、医療費や休業補償を受けられる制度

一方、狭義の意味で使われる「社会保険」とは健康保険、厚生年金保険、介護保険を指します。雇用保険と労災保険は「労働保険」として括られます。

関連記事:【担当者向け】社会保険の加入手続きに必要な書類をチェック。最新の加入条件も解説

雇用保険加入のメリット(事業者側、労働者側)

雇用保険に加入することで、事業者、労働者、それぞれに以下のようなメリットがあります。

【事業者側のメリット】

  • キャリアアップ助成金、両立支援等助成金などの助成金が受けられることがある
  • 雇用保険に入れることで、労働者が安心して求人に応募できる
  • 離職率が低下して、長期で働いてもらいやすくなる

【労働者(従業員)側のメリット】

  • 失業や育児などの際に給付を受けられる
  • 職業訓練を受ける際に給付を受けられる
  • 再就職時に金銭的なサポートを受けられる

雇用保険は事業者にも保険料の負担があります。しかし優秀な人材獲得につながったり、長期で活躍してもらえる、社会的な信用が得られるなど、負担以上の恩恵を得られるものとも言えます。

関連:2025(令和7)年 キャリアアップ助成金の改正ポイント(正社員化コース)を解説

雇用保険の加入対象と条件

雇用保険には事業者側と労働者(従業員)側で、それぞれに加入条件があります。加入条件に該当する場合は、その意志にかかわらず加入が必須です。

事業者(企業)の加入条件

一人でも従業員を雇った場合、業種や規模にかかわらず、雇用保険への加入手続きが必要です。

※ ただし個人の農林水産業で、常時雇用している従業員が5人未満の事業所は暫定的に雇用保険への加入が任意とされています。

労働者(パート・アルバイトを含む)の加入条件

労働者は以下の加入条件をすべて満たす場合、雇用保険へ加入しなければいけません。

  • 雇用保険の適用事業所(1人でも従業員を雇っている事業所)に雇用される
  • 31日以上引き続き雇用される見込みである
    (期間の定めがない場合、雇用の更新規定はあるが31日未満での雇止めの明示がない場合などを含む)
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上である
  • 昼間に学生ではないこと
    (休学中、大学の夜間学部、高校の夜間・定時制などの一部の学生は加入対象)

パートやアルバイトも例外ではなく、上記の条件で加入の判断を行います。

※ 法人の役員、個人事業主と同居の家族などは、上記の条件に当てはまっても、雇用保険の対象外です。
※ 労働時間について、実際は週20時間を超えたり超えなかったりと変動することも想定されます。基本的には労働契約の内容で判断します。

雇用保険マルチジョブホルダー制度

2022年1月に施行された「雇用保険マルチジョブホルダー制度」では、65歳以上の労働者が複数の事業所で働く場合、それぞれの事業所での所定労働時間が5時間以上20時間未満などの条件に当てはまると、雇用保険に加入できるようになりました。

事業者向け 雇用保険の加入手続きの流れ・必要書類

雇用保険に加入する際、事業者は以下の流れで各種書類を提出します。

  1. 「労働保険 関係成立届」
  2. 「労働保険 概算保険料申告書」
  3. 「労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」(任意)
  4. 「雇用保険適用事業所設置届」
  5. 「雇用保険被保険者資格取得届」

初めて従業員を雇う際は1〜5まですべて、追加で従業員を雇い入れる際は5の提出が必要です。

※ 労災保険と雇用保険の保険料の申告を一緒に行う「一元適用事業」の場合の流れを紹介します。

1. 「労働保険 関係成立届」の提出(初めて雇う場合)

初めて従業員を雇い入れる際は、まずは労働保険の保険関係成立届を労働基準監督署に提出します。これは事業所が労働保険(雇用保険と労災保険)に加入するために必要な書類です。

画像出典:厚生労働省 

労働保険関係成立届の様式はWebではダウンロードできませんが、「電子申請」を使用すれば、届出用紙を入手する手間を省けます。

参照:労働保険関係手続の電子申請について|厚生労働省

労働保険の年度更新などもできるので、これから手続きをする際は電子申請がおすすめです。

様式取得・届出先所轄の労働基準監督署(電子申請可)
期日従業員を雇い入れた日から10日以内
添付書類法人登記簿謄本(個人の場合は営業許可証など)、労働保険概算保険料申告書(同時に提出する場合)

岡山労働基準監督署
〒700-0913 岡山市北区大供2-11-20
労災業務(TEL 086-225-0593)

2. 「労働保険 概算保険料申告書」の提出

当該年度の労働保険料の概算を計算し、提出します。

1の「労働保険関係成立届」を労働基準監督署へ郵送や持参で提出する場合は、併せて確認してもらえます。

様式取得・届出先所轄の労働基準監督署、所轄の都道府県労働局、金融機関(電子申請可)
期日従業員を雇い入れた日から50日以内

3. 「労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」の提出(任意)

労働保険料の口座振替での納付を希望する際に金融機関に提出します。

様式取得厚生労働省
届出先金融機関
期日任意

4. 「雇用保険 適用事業所設置届」の提出

1の「労働保険 関係成立届」、2の「労働保険 概算保険料申告書」の提出後に提出します。

様式取得・届出先公共職業安定所(電子申請可)
期日適用事業所設置の日の翌日から10日以内

岡山労働局管轄の公共職業安定所一覧

5. 「雇用保険被保険者資格取得届」

従業員が雇用保険に加入するのに必要な書類です。

様式取得・届出先公共職業安定所(電子申請可)
期日資格取得日(雇い入れた日)の翌日から10日以内

事業者向け 退職時の雇用保険の手続きの流れ・必要書類

雇用保険に加入している従業員が退職する際は、以下の書類を公共職業安定所へ提出します。

  • 「雇用保険被保険者資格喪失届」
  • 「離職証明書」

こちらの書類に記載した内容で退職者の失業給付の金額などが決まります。特に退職理由は事業所と従業員とで意見が分かれることがあるため、退職者としっかり話し合うことが大切です。

様式取得・届出先公共職業安定所(電子申請可)
期日退職日の翌々日から10日以内

提出後、ハローワークから「離職票」が発行されます。速やかに退職者へ渡してください。

雇用保険料と納付

毎月の雇用保険料は、以下の計算式で算出します。

雇用保険料 = 賃金総額 × 雇用保険料率

賃金総額とは基本給だけでなく、手当や賞与なども含みます。以下、給与総額(賃金)に含まれるもの / 含まれないものの一例です。

賃金総額に算入するもの賃金総額に算入しないもの
– 基本給/固定給等基本賃金
– 超過勤務手当/深夜手当/休日手当等
– 扶養手当/子供手当/家族手当等
– 宿、日直手当
– 役職手当/管理職手当等
– 地域手当
– 住宅手当
– 教育手当
– 単身赴任手当
– 技能手当
– 特殊作業手当
– 奨励手当
– 物価手当
– 調整手当
– 賞与
– 通勤手当
– 定期券/回数券等
– 休業手当(労働基準法第26条の規定に基づくもの)
– 雇用保険料その他社会保険料(労働者の負担分を事業主が負担する場合)
– 住居の利益(社宅等の貸与を受けない者に対し均衡上住宅手当を支給する場合)
– いわゆる前払い退職金(労働者が在職中に、退職金相当額の全部又は一部を給与や賞与に上乗せするなど前払いされるもの)
– 休業補償費(業務災害、通勤災害に係るもの)
– 結婚祝金
– 死亡弔慰金
– 災害見舞金
– 増資記念品代
– 私傷病見舞金
– 解雇予告手当(労働基準法第20条の規定に基づくもの)
– 年功慰労金
– 出張旅費/宿泊費/赴任手当等(実費弁償的なもの)
– 制服
– 会社が全額負担する生命保険の掛金
– 財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等(労働者が行う財産形成貯蓄を推奨援助するため事業主が労働者に対して支払う一定の率又は額の奨励金等)
– 創立記念日等の祝金(恩恵的なものではなく、かつ、全労働者又は相当多数に支給される場合を除く)
– チップ(奉仕料の配分として事業主から受けるものを除く)
– 住居の利益(一部の社員に社宅等の貸与を行っているが、他の者に均衡給与が支給されない場合)
– 退職金(退職を事由として支払われるものであって、退職時に支払われるもの又は事業主の都合等により退職前に一時金として支払われるもの)

参照:労働保険料の算定基礎となる賃金早見表

つまり賃金総額が毎月変わる場合、雇用保険料も変動します。

また雇用保険料率は毎年、見直されます。変更日は4月1日です。「令和●年度 雇用保険料率」と検索すると、最新の料率を確認できます。事業の種類によって料率は異なります。

画像出典:令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内|厚生労働省

例えば「一般の事業」に分類される従業員の賃金総額が40万円だった場合、

  • 従業員負担:40万円 × 0.55% = 2,200円 
  • 事業主負担:40万円 × 0.9% = 3,600円
    → 合計雇用保険料率:5,800円

となります。

保険料の納付方法

保険料は毎年、前年度の賃金に基づき概算の保険料を計算し、所轄の労働基準監督署に申告した上で納付します。電子申請も可能です。

例年の期間は6月から7月上旬までです。

担当者からよく受ける雇用保険に関する質問

以下では雇用保険の手続きに関してよくある質問と回答をまとめておきます。

新しい保険料率はいつから適用される?

雇用保険の保険料は毎年変更されます。毎年、4月1日以降の最初の締め日により支給される給与から適用されます。

※ 3月末締めで4月に支払われる給与は、前年度分の雇用保険料とみなします。

試用期間中も雇用保険に加入させなければいけない?

試用期間中であっても、加入条件を満たし、労働の対価が支払われる場合は、雇用保険に加入させる義務があります。

賞与からも雇用保険は控除しなければいけない?

はい。賞与も雇用保険の対象です。

雇用保険は労働の対価として支払われたものに対して発生します。逆に言えば「結婚祝金」や「年功慰労金」などは雇用保険の対象外です。

育児休業や産前産後休業中の雇用保険は?

育児休業や産前産後休業中は給与の支給がなければ雇用保険の支払いは発生しません。

育児休業中は育児休業給付金が支給されますが、これは雇用保険制度の給付であり、労働の対価としての給与ではありません

関連記事:【育児関連の変更点】2025(令和7)年改正 育児・介護休業法をわかりやすく解説

従業員がダブルワークの場合の雇用保険はどうなる?

ダブルワークでそれぞれの職場で雇用保険の加入条件に該当する場合、原則、いずれか主たる職場で雇用保険に加入します。

また、いずれの職場でも加入条件を満たさない場合は、雇用保険に加入できません。ただし、先述の「雇用保険マルチジョブホルダー制度」の特例があります。

未加入の場合どうなる

罰金や遡及した保険料の支払いを求められることがあります。また従業員から信頼を失うだけでなく、損害賠償される可能性もあり、未加入のリスクは非常に高いと言えます。

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    参考資料

    この記事の執筆者
    まき社会保険労務士事務所 代表
    社会保険労務士 牧 あや