25年10月「教育訓練休暇給付金」が開始。会社側の要点をわかりやすく解説
労働者のリスキリング、企業による従業員へのキャリア形成支援が求められる中、2025年10月から「教育訓練休暇給付金」という新しい制度が始まります。
労働者が休暇を取得して教育訓練などを受講した場合、雇用保険から生活費の支援を受けられます。
事業主側にとっての制度のメリットとデメリット、事務手続きを押さえておきましょう。
【この記事でわかること】
- 教育訓練休暇給付金って何?どんな制度?
- 企業にとってどんなメリット・デメリットがあるのか
- 制度の導入、給付金申請の方法
目次
「教育訓練休暇給付金」制度概要
教育訓練休暇給付金制度は、2025年10月1日から新しく始まる制度です。2024年5月に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律」に基づき、運用されます。
労働者が新しい知識やスキルを学ぶために仕事から離れ、無給の休暇(教育訓練休暇)を取得したとき、その期間中の生活費(支援金)が雇用保険から支給されます。
デジタル化や産業構造の変化が激しい現代、労働者が経済的な不安なく「リスキリング(学び直し)」や能力開発に集中できるよう支援することを目的としています。

給付の支給要件
従業員の雇用保険に関して、以下の要件があります。
- 雇用保険の「一般被保険者」であること
パートやアルバイトでも、雇用保険に入っていれば対象です - 被保険者期間が全体で5年以上あること
- 休暇を開始する前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上あること
長期の休職などがあった従業員は、最大で4年まで遡ることができる
また、取得する休暇に関しての要件は以下のとおりです。
- 「無給の休暇」であること
有給を使った場合、休暇中に働いて収入を得たときは、給付の対象外 - 企業が制定した「教育訓練休暇制度」に基づいた休暇であること
会社に制度がないと利用できません - 企業命令ではなく従業員が自発的に申請するものであること
- 休暇の初日から末日まで「30日以上」あること
給付期間・日数
給付を受けられる期間(受給期間)は、休暇開始日から起算して1年間です。
そのうち、給付を受けられる日数の上限は、被保険者期間に応じて3パターンあります。雇用保険に加入していた期間が長いほど、長期で給付金を受け取れます。
| 被保険者期間 | 給付日数上限 |
|---|---|
| 5年以上10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
給付額
教育訓練休暇給付金の給付額は、雇用保険の「基本手当(失業手当)」と同じ計算方法で支給されます。
| 1日あたりの給付額 = 休暇開始前の賃金日額(過去6ヶ月の平均賃金)× 給付率(原則50~80%) |
※ 休暇開始前の賃金日額には基本給や残業手当、通勤手当など、毎月支給されるものが含まれます。3ヶ月を超える期間ごとに払われる賞与や結婚祝金、出張旅費など臨時的・特別な支給は含みません。
「給付率」は賃金の水準によって、段階的に決まり、賃金が低い人ほど、高い給付率(最大80%)が適用されます。厚生労働省が毎年定める「賃金日額の範囲ごとの給付率表」で決められています。
【具体例】
過去6ヶ月の賃金日額が1.5万円、給付率が60%、50日間の職業訓練休暇を取得した場合
1.5万円 × 60% × 50日間 =45万円
関連記事:【事業主向け】雇用保険のキホン 加入条件、手続きをわかりやすく解説
対象講座
前提として給付金の対象となる講座は従業員の職業に関する知識やスキルアップにつながるものです。言わずもがな、趣味の講座などは含まれません。
具体的には以下の訓練が対象として定められています。
- 学校教育法に基づく大学、大学院、短大、高専、専修学校又は各種学校
- 教育訓練給付金の指定講座を有する法人等が提供する教育訓練等
- 職業に関する教育訓練として職業安定局長が定めるもの
(司法修習、語学留学、海外大学院での修士号の取得等)
基本的に「教育訓練給付金」の対象となる教育訓練は対象となります。
教育訓練給付金との違い
キャリアアップや再就職を支援するための給付金として、従来から「教育訓練給付金」がありました。
教育訓練休暇給付金との主な違いは「補助の目的」です。
| 教育訓練休暇給付金 | 教育訓練給付金 | |
|---|---|---|
| 目的 | 教育訓練のために 「無給休暇を取得した期間の 生活費」を補助 | 教育訓練の「受講費用」 の一部を補助 |
| 給付内容 | 基本手当(失業手当)と同額 | 受講費用の20~50% (条件によって最大80%) |
| 給付対象 | 在職中に30日以上の 無給教育訓練休暇を取得 | 在職中・離職後問わず、 対象講座を受講 |
| 申請 | 休暇取得中 | 受講修了後 |
企業側から見た教育訓練休暇給付金
事業主には労働者が教育訓練休暇給付金を活用しやすいよう、制度を整備するなどの支援が求められます。
一見すると、企業にとっては事務負担の増加や従業員の離職リスクが上がってしまうだけのように感じるこの給付金制度には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
企業側から見たメリット
- 従業員のスキルアップと生産性向上
従業員が新たなスキルや知識を習得することで、業務効率の向上、新事業への対応、イノベーション促進など、企業の生産性向上が期待できる - 人材の定着率向上とエンゲージメント強化
従業員の満足度や会社への信頼感が高まり定着率や貢献意欲(エンゲージメント)のアップが期待できる - 採用競争力向上と企業のイメージアップ
「学びを支援する職場」とアピールでき、優秀な人材の確保につながる
人材育成によって組織の活性化やイメージアップ、コスト削減など、企業にとって少なくないメリットが期待できます。
企業側から見たデメリット
- 人事労務担当者の事務負担が増える
- 長期休暇により当該従業員が所属する現場の負担が増える
(代替要員の確保や人員の再配置が必要になることも) - 制度を利用する人・利用しない人との間で不公平感が生まれる
これらのデメリットも考慮し、現場の声を聞きつつも、制度の必要性を丁寧に説明し設計する必要があります。
教育訓練休暇給付金の制度導入・申請ステップ
企業が教育訓練休暇給付金の制度を導入し、実際に従業員が給付金を受け取るまでのステップを確認します。
1. 制度設計
教育訓練休暇給付金の制度を設計します。
- 制度の目的と方針
どのような人材育成を目指すのか、なぜ教育訓練休暇を設けるのか など - 制度の内容
対象の訓練、休暇の対象者、日数、無給であること など - 申請・承認方法
事前承認制、上司・人事部の承認が必要 など
2. 就業規則などの整備・周知
新しい休暇制度を導入するには、就業規則への明記と労働基準監督署へ届け出ることが法律で定められています。
休暇の内容を明文化し、周知することで従業員も安心して制度を利用できます。
関連記事:就業規則 変更
参照:規程例(教育訓練休暇給付金のご案内|厚生労働省 P.9)
3. 従業員からの申し出と合意
制定した企業の制度に基づき、従業員が自発的に休暇の申請を行い、企業が合意・承認します。
4. ハローワークへの給付金の申請手続き(企業側・従業員側)、必要書類
給付金の申請手続きは事業主と労働者が連携して行います。
事業主は休暇開始日から10日以内に、労働者は休暇開始日から30日ごとにハローワークに書類を提出します。
| 手続者 | 内容 | |
|---|---|---|
| 1 | 労働者 | 教育訓練休暇取得確認票を事業主に提出 |
| 2 | 事業主 | 提出された教育訓練休暇取得確認票 に必要事項を記載 |
| 3 | ー | 教育訓練休暇の開始 |
| 4 | 事業主 | 教育訓練休暇の開始から10日以内に 事業所を管轄するハローワークに賃金月額証明書を提出 ※ 添付書類 ・休暇制度が規定されている就業規則等の写し ・対象労働者に係る賃金台帳、出勤簿等の 賃金支払い・就労実態が確認できる書類 |
| 5 | 事業主 | ハローワークから交付される ・教育訓練休暇給付金支給申請書 ・賃金月額証明票(本人手続用) を労働者に交付 |
| 6 | 労働者 | 5で交付された ・教育訓練休暇給付金支給申請書 ・賃金月額証明票(本人手続用) に必要事項を記入し、 自宅住所を管轄するハローワークに提出 ※添付書類 ・教育訓練休暇取得確認票 (労働者から申出を行い、事業主が承認したもの) ・本人確認書類 (マイナンバーカード、運転免許証等) ・通帳、キャッシュカード等 |
| 7 | ハローワーク | 受給資格決定通知の交付、 初回認定の日程等の案内 |
| 8 | 労働者 | 休暇開始から起算して30日ごとに ハローワークへ認定申告書を提出 ※添付書類 ・受給資格決定通知 ・教育訓練を受講していることを証明する書類 (受講証明、領収書 など) ・本人確認書類 (マイナンバーカード、運転免許証 など) |
| 9 | ハローワーク | 審査・支給決定 |
| 以後、30日ごとに8、9を繰り返し |
教育訓練休暇給付金に関するよくある質問(Q&A)
最後に労働者、事業主側、それぞれからよく挙がる質問とその回答をまとめます。
教育訓練休暇中に賃金が発生する労働をしたらどうなる?
就労した日は給付を受けられません。副業を行う場合も同様です。
事業主側も教育訓練休暇中に出勤を求めることは認められず、最低でも30日以上連続して無給の休暇を取得させる必要があります。
年齢制限はある?
年齢による制限はありません。被保険者期間などの条件を満たしていれば、給付の対象です。
教育訓練休暇給付金を受けると、他の給付に影響はある?
給付を受けると、休暇開始日より前の被保険者期間がなかったものとみなされる(リセットされる)ので、一定期間は失業給付などの給付金を受給できなくなります。
複数回、休暇を取得して給付を受けることはできる?
受給期間(休暇開始から1年間)と給付日数(最大150日)の範囲内であれば、教育訓練休暇を複数回に分けて取得した場合でも、給付金を受けられます。
また、教育訓練休暇給付金の受給回数に制限はありません。
ただし、上述のとおり、一度、給付金を受けると、休暇開始日より前の被保険者期間がリセットされるため、連続して異なる教育訓練休暇を取得して受給することはできません。
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参考資料
まき社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士 牧 あや
まき社会保険労務士事務所
