給与規定(賃金規定)を正しく変更する手順。不利益変更の確認から届け出まで

2026年04月23日
給与規定の変更

「給与規定を変えたいけれど、どのように手続きすればいいかわからない……」という声をいただくことがあります。

給与規定・賃金規定は変更の方法を間違えると、法的に無効になるだけでなく、訴訟などのリスクもあります。この記事では給与規定の位置づけから変更の際の注意点、具体的な手順を紹介します。

 【この記事のポイント】

  • 給与規定は給与の支払いに関するルールで法律上は就業規則の一部
  • 給与規定の変更で最も注意が必要なのが「不利益変更」。前提として就業規則を労働者の不利益になるように変更することはできない
  • 不利益変更が認められるには「労働者から個別同意を得る」「変更に合理性があり、適切に周知する」といった手続きが必要
  • 給与規定の変更は従業員の生活に直結するため、余裕をもって手続きをすることが大切

給与規定の基本

給与規定は、労働者に支払う賃金について、基本給・各種手当・賞与・昇給・支払い方法などのルールをまとめた規程です。

企業によっては「賃金規程」「賃金規定」などと呼ばれることもありますが、「自分の会社はこのルールで給与を払います」と明文化したものすべてが給与規定に該当します。

給与は従業員にとって生活の基盤であり、給与規定はとくに重要なルールです。

前提:給与規定は就業規則の一部

給与規定は、就業規則とは別の規程として作っている会社も多いですが、法律上は就業規則の一部として扱われます。

労働基準法では就業規則に必ず記載しなければならない事項として以下のとおり定められています(第八十九条)。

賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

つまり、給与規定は就業規則の一部として扱われる以上、内容を変更する際は就業規則の変更と同じ手続きが必要になります(就業規則内に給与規定を設けてる場合は、就業規則そのものの修正手続きが必要)。

関連記事:就業規則を変更するには?手続きの流れと注意点を解説

正しい手続きを踏まないと変更が無効なことはもちろん、届け出を怠ったことによって罰金が課される可能性もあります。

※ 給与規定の対象は正社員だけではなく、パートタイマーやアルバイト、契約社員など、雇用形態を問わずすべての労働者が対象です。

正社員用の給与規定とは別に「アルバイト賃金規程」などとして作成しても問題ありませんが、規程がない状態は法令違反です。

関連記事:同一労働同一賃金とは?最新の情報、企業が取るべき対応

給与規定を変更するタイミング

給与規定の変更が必要になるタイミングは、主に以下のようなケースが挙げられます。

  • 法改正・最低賃金の改定への対応
    毎年10月前後の最低賃金の改定のタイミング
  • 人事制度の見直し
    評価制度・手当・賞与の支給ルール変更など、企業の人事戦略の転換に合わせて
  • 経営状況の変化
    業績悪化による人件費削減や、事業拡大に伴う給与水準の引き上げなど
  • 働き方の変化への対応
    在宅勤務、副業・兼業解禁に伴うルール整備など
  • 労務トラブルの防止・解決
    従業員とのトラブルや労働基準監督署(労基署)からの是正勧告をきっかけとした見直し

変更の際の注意点「不利益変更」

給与規定の変更で最も注意が必要なのが「不利益変更」です。

給与規定の変更は「従業員に恩恵がある変更」と「不利益になる変更」に大別できます。

不利益変更とは、変更前よりも働く人の労働条件が下がる変更のことです。「少しだけ給与のベースを減らす」というようなわずかな不利益も該当します。

大前提として法律では就業規則を労働者の不利益になるように変更できないと定めています(労働契約法第9条)。

不利益変更が認められる条件

とは言え、業績悪化や人事戦略の変更など、どうしても賃金を改定しれなければいけないこともあります。

そこで不利益変更が法的に有効だと認められるためには、以下、いずれかの方法を取る必要があります。

  1. 労働者から個別同意を得る
    変更内容を説明し、労働者一人ひとりから同意を得る
  2. 変更に合理性があり、適切に周知する
    労働者から同意を得られなかった場合でも、変更内容に合理性があり、かつに適切に周知された場合は、同意がなくても有効になることがある

変更内容の「合理性」の基準

  • 経営上、やむを得ない変更の必要性がある
  • 変更内容が妥当である(不利益が過大でなく相当)
  • 代償措置がある(他の条件改善などの補填がある)
  • 労使間で交渉した経緯がある

ただ、実際の現場では「合理性」があるかは解釈が分かれ難しいものです。変更内容が不利益変更に当たるか判断しかねるときは、社会保険労務士への相談をおすすめします。

給与規定変更の手続き流れ

それでは上記の「不利益変更」に注意を払いつつ、給与規定を変更する流れを確認しておきましょう。

  1. 変更案の作成
  2. 不利益変更の確認
  3. 労働者への説明・同意取得
  4. 意見書の取得
  5. 規程の改訂・新旧対照表の作成
  6. 労基署への届出
  7. 従業員への周知
  8. 変更後の諸手続き

1. 変更案の作成と法律に適合しているか確認

今回、給与規定を変更する目的と内容を明確にし、経営層で合意を取ります。あわせて、変更内容が現行の法令に違反していないか確認します。

とくに最低賃金や割増賃金率など、最新の情報を確認しましょう。

関連記事:最新の岡山の最低賃金|そもそも最低賃金とは?基本から解説

関連記事:【基本】割増賃金のルールをわかりやすく解説。割増率や計算方法

2. 不利益変更に該当するか確認

変更内容が労働者にとって不利益にあたるかどうかを判断します。不利益変更の場合は、後述する個別の同意取得が必要です。

「一部の人には有利だが、見方によっては不利になる人もいる」というような複雑な改定の場合も厳しく確認します。

3. 労働者への説明・同意取得

変更内容を労働者に説明します。不利益変更の場合は、個別に同意書を取得します。

会社が同意のサインを強制することがないよう、労働者の自由意思で署名したことが記録として残るようにします。

「不利益変更 同意書」に記載する主な項目

  • 変更日
  • 変更の内容
  • 変更の理由
  • 代表、労働者の署名 など

先述のとおり、全ての労働者から同意を得られなかったときは、「変更内容に合理性があること」「適切に周知されていること」を満たすことで、給与規定を変更できます(労働契約法第10条)。

しかし、労働者の理解を得られないまま変更を進めても、後々の労使トラブルや離職につながるおそれもあるので、信頼関係を維持するためにも、誠意のある説明・交渉は必要です。

4. 過半数代表者からの意見書の聴取

給与規定の変更は就業規則の変更に準じるため、労働者の過半数を代表する人から意見を聞き、意見書を作成する必要があります(労働基準法第90条)。

出典:福井労働局

※ 意見書はあくまで「意見を聴いた」ことを証明する書類です。反対意見が記載されていても、後述の労基署への届出はできます。

  • 「反対」「同意しない」意見がある:その旨を記載
  • 「賛成」「意見なし」:「特に意見なし」と記載

5. 規程の改訂・新旧対照表の作成

変更後の給与規定を正式に作成します。また変更前・変更後の内容を並べた新旧対照表を作成しておきます。新旧対照表の労基署への提出は任意ですが、スムーズに手続きを進めるためにも作成をおすすめします。

▼新旧対照表の例

条文改正前改正後
第◯条役付手当は、以下の職位にある者に対し支給する。
部長 月額◯円
課長 月額◯円
係長 月額◯円
役付手当は、以下の職位にある者に対し支給する。
部長 月額●円
課長 月額●円
係長 月額●円
第◯条新設

家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対して支給する。
①18歳未満の子1人につき 月額◯円
②65歳以上の父母1人につき 月額◯円

6. 労働基準監督署への届出

労働者を10人以上雇用する事業場は、所轄の労働基準監督署へ変更届を提出する義務があります。

必要書類・就業規則(給与規定)変更届(様式任意)
・労働者代表からの意見書
・変更後の規程
・(変更点の新旧対照表)
提出先各事業所の所在地を管轄する労働基準監督署
提出方法・持参
・郵送
・電子申請
提出期限明確な定めなし
(原則、変更内容の施行前)

参考:岡山の労働基準監督署一覧

提出は電子申請がおすすめです。

関連記事:【簡単作成】GビズIDの基本とできること、取得方法

労働者10人未満の事業場は届出義務はありませんが、規程の整備と周知は必要です。

7. 従業員への周知

事業場の見やすい場所への掲示、書面の交付、社内イントラネットへの掲載など、変更後の給与規定を全従業員に周知します。

労基署への届出後なので軽く認識されるかもしれませんが、周知がなければ給与規定の変更は効力を持ちません。「書面を交付した」「掲載した」という記録を残しておくことが重要です。

8. 変更後の諸手続き

新しい給与規定にもとづき実際の給与変更の手続きを行います。

  • 給与計算システムの設定変更
  • 月額変更届の提出
    固定給の変更があり、標準報酬月額が2等級以上変動があった場合

給与規定の変更は従業員の生活に影響するものです。変更してすぐに反映させるのではなく、時間的な余裕を持って手続きすることが大切です。

給与規定の変更に関するよくある質問

最後に給与規定の変更について、ここまで触れてこなかったよくある質問と回答をまとめます。

複数の事業所がある場合は個別に変更、届け出が必要ですか?

給与規定の変更は、原則として事業所ごとに届け出が必要です。

ただし変更内容がすべての事業所で同じ場合に限り、本社の所在地を管轄する労基署へ一括して届け出ることができます(一括届出制度)。

ただしその場合も各事業所の労働者の代表から意見書を取る必要があります。

変更後の「周知」は口頭でも問題ありませんか?

口頭だけでは法的に認められない可能性が高いです。

法律では「常時各作業場の見やすい場所へ掲示」「備え付け」「書面交付」「常時確認できる機器(パソコン等)を設置」といった方法を取ることが義務付けられています(労働基準法 第106条など)。

口頭では「常時確認できる」といった条件を満たせません。

モデル規定(ひな型)をそのまま使っても問題ないですか?

モデル規定を使うこと自体に問題はありませんが、そのまま使うことで自社の実態に即さず、未払い賃金などのトラブルにつながるリスクがあります。モデル規定はあくまで「見本」であり、中身は必ず自社の内容に合わせて書き換える必要があります。

社労士に頼まずに自社で変更しても違法にはなりませんか?

違法にはなりません。

ただし規程の変更が不利益あたるかどうかの判断が難しい場合などは、信頼できる社会保険労務士に相談することをおすすめします。

給与規定について相談するなら、まき社会保険労務士事務所へ

岡山市のまき社会保険労務士事務所では「お客様の悩む時間をゼロにしたい」という思いのもとで、社会保険等届け出・就業規則の作成・給与計算・助成金等の申請を行っています。

「気軽に相談できる身近なパートナー」となるべく、可能な限りサポートさせていただきます。岡山市周辺の方はもちろん、全国オンライン対応しておりますので、ぜひお問い合わせください。


お問い合わせ

    電話連絡を希望メールでの連絡

        


    この記事の執筆者


    まき社会保険労務士事務所 代表

    社会保険労務士 牧 あや