【最大75万円】厚生年金保険の標準報酬月額の上限が引き上げへ。影響と対策
2025年(令和7年)6月に成立した年金制度改革の一環で、厚生年金保険料を算出する際の「標準報酬月額」の上限が引き上げられることが決まりました。
いつから適用されるのか、具体的にどれくらい負担が増えるのかは、労使ともに気になることだと思います。この記事では厚生年金保険料の「標準報酬月額」とは?といった基本から、改めて確認します。
【この記事でわかること】
- 厚生年金保険料の決まり方(標準報酬月額とは?)
- いつから、どれくらい標準報酬月額の上限が引き上げられるのか
- 従業員の負担はどれくらい増えるのか
- 事業主が対応すべきこと
目次
【基礎】厚生年金保険料と標準報酬月額
労働者と事業主が負担する厚生年金保険料(社会保険料)を決める際、「標準報酬月額」という基準が使われます。
標準報酬月額は、従業員が会社から受け取る給与(基本給や各種手当など)を、区切りの良い幅ごとに等級(ランク)に分けて設定された金額です。
2025年(令和7年)現在は、以下の32等級に分かれています。例えば標準報酬月額が30万円の従業員は「19等級」にランク付けされ、毎月27,450円(事業主と合わせて54,900円)の年金保険料を支払います。

出典:保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険) |日本年金機構
標準報酬月額が使われる理由
毎月の給与や手当は金額が変動しやすいため、標準報酬月額によって「一定額」として扱うことで、年金保険料の計算をシンプルにすることを目的としています。
標準報酬月額の上限設定(月額63.5万円、年収762万円)
また標準報酬月額には上限が定められていて、収入が一定額以上になったときは、それ以上年金保険料が増えないようになっています。
2025年現在は月収が635,000円以上になると32等級に達し、それ以上、年金保険料は増えません。
上限が決められている主な理由は
- 年金の給付額に大きな差が出ないようにするため
- 保険料の半分を負担する事業主の負担を考慮するため
とされています。
標準報酬月額の決まり方
前提として標準報酬月額は従業員に毎月支払われる報酬額(基本給や手当など)で決まり、賞与は別で計算します。
具体的に標準報酬月額は原則4月から6月の3ヶ月の報酬を元に算出されます。「4月から6月に残業をしすぎると社会保険料が高くなる」と言われるのは、これが理由です。

出典:厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて|厚生労働省
標準報酬月額に含むもの、含まないもの
標準報酬月額の算定に含めるのは「経常的」かつ「実質的」に支給されるものです。
| 標準報酬月額 に含むもの | 標準報酬月額 に含まないもの |
|---|---|
| ・基本給、所定内給与 ・残業手当、休日出勤手当などの時間外手当 ・各種手当 (通勤手当、住宅手当、家族手当、 扶養手当、資格手当、役職手当など) ・実質的な支給 (通勤定期券、食事、住宅の提供など) ・年4回以上の賞与 (年3回以下の賞与は含まず 「標準賞与額」として別途算出) | ・1カ月を超える期間ごとに支払われるもの (賞与、決算手当など) ・恩恵的な支給 (見舞金、結婚祝など) ・退職手当・弔慰金 ・出張旅費や宿泊費などの実費弁償 ・給与外の福利厚生費用 など |
2027年〜2029年に標準報酬月額の上限が段階的に引き上げ
2025年(令和7年)6月に「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」が成立しました。
年金制度の機能を強化することで、いまの現役労働者が高齢になったときの生活を安定させることを目的としています。
この改正ではいくつかの年金のルールが一体的に改正されていて、その内の1つが今回の「保険料や年金額の計算に使う賃金(標準報酬月額)の上限の引き上げ」です。

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「標準報酬月額」の上限引き上げ内容と適用時期(いつから?)
賃金全体が上昇傾向にあることも踏まえて、今回の改正により、年金保険料の算定に使う標準報酬月額の上限が3年かけて65万円から75万円に引き上げられます。
| 等級 | 上限 | 引き上げ時期 |
|---|---|---|
| 32 | 65万円 | 2026年度までの上限 |
| 33(NEW) | 68万円 | 2027年(令和9年)9月から |
| 34(NEW) | 71万円 | 2028年(令和10年)9月から |
| 35(NEW) | 75万円 | 2029年(令和11年)9月から |
(参考)過去の標準報酬月額の上限の推移
| 改定年 | 上限 | 考え方 |
|---|---|---|
| 1985年10月 (昭和60年) | 47万円 | 男子被保険者の平均標準報酬月額の概ね2倍となるよう設定 |
| 1989年12月 (平成元年) | 53万円 | 女子も含めた現役被保険者全体の平均標準報酬月額の概ね2倍 となるように設定 |
| 1995年11月 (平成6年) | 59万円 | |
| 2001年10月 (平成12年) | 62万円 | |
| 2005年10月 (平成16年) | 62万円 | 上記の改定ルール(現役被保険者の平均標準報酬月額の 概ね2倍に当たる額を基準に改定)を法定化 |
| 2020年9月 (令和2年) | 65万円 | 上記改定ルールに基づき、第32級(65万円)を追加 |
「標準賞与額」の上限引き上げは未定
2025年現在、厚生年金保険における標準賞与額(賞与に対する社会保険料計算の基礎額)は1ヶ月あたり150万円が上限です。
この金額については、2025年10月時点では引き上げられるとの情報はありません。
改定による従業員と事業者への影響
今回の改定に伴い、労働者(従業員)と事業主、双方にどのような影響があるのか見ていきましょう。
従業員と事業主の保険料負担額はどれだけ増えるか
改正後、標準報酬月額が75万円以上の従業員の場合、年金保険料の負担は月に9,100円(社会保険料控除を考慮すると月約6,100円)、年で109,200円(同年約73,200円)増えるとされています。
また社会保険料の負担は労使折半のため、事業主にも同額の保険料の負担が新たに発生します。
将来の年金受給額への影響
上記の「標準報酬月額が75万円以上」の状態が10年続くと、年金受給額は月に約5,100円(年金課税を考慮すると月約4,300円)増えるとされています。
仮に10年間の増額分(9,100円×120ヶ月=約109万円)の元を取ろうとすると、約18年かかることになります。
(社会保険料控除、年金課税は一定の前提)
標準報酬月額の上限引き上げに伴う事業者の対応
今回の標準報酬月額の上限引き上げに伴い、事業者に求められる対応には以下のようなことが挙げられます。
- 給与計算システムの等級変更の対応
- 賃金・給与・手当・福利厚生基準の見直し
(企業が負担する社会保険料コストの増加を抑えるための見直し。賞与と月給のバランス調整も含む) - 上記の見直しに伴う就業規則や給与規定などの変更
- 従業員への説明・問い合わせ対応と周知
従業員への説明に関しては、以下のよくある質問も参考にしながら、資料や回答テンプレートを準備すると良いでしょう。
標準報酬月額の上限引き上げに関するよくある質問
最後に今回の改定に関するよくある質問と回答をまとめます。
健康保険の標準報酬月額にどのような影響がありますか?
今回は厚生年金年金の算定に関わる部分の改定ですので、現時点では健康保険の等級には影響はありません。
健康保険に関しては、別途、50等級に区切られています。

出典:保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険) |日本年金機構
役員報酬を変更した場合、月変(随時改定)の手続きは必要ですか?
役員報酬を変更した場合、変動幅によっては社会保険の標準報酬月額を見直す手続きが必要です。
- 標準報酬月額が2等級以上変更される場合→「随時改定(月額変更届、月変)」
- 標準報酬月額が2等級未満の変更の場合→「定時決定」
「随時改定」に該当する場合は、3ヶ月目の支給後に「月額変更届」を提出し、その翌月の社会保険料から変更が反映されます。
「定時決定」に当たる場合は、次回の定時決定の時期(4~6月の支給額での判定)に変更手続きします。
標準報酬月額が上限未満の従業員にも影響はありますか?
今回の改定では影響はありません。
厚生年金保険料の負担増を避けるために給与を調整しても良いですか?
社会保険料の負担を軽減する目的で、意図的に給与を低く設定したり、実際の報酬を隠したりする行為は法令違反として処分されるリスクがあります。
将来的にさらに上限が引き上げられる可能性はありますか?
年金財政の状況を踏まえ、標準報酬月額の上限は今後も見直される可能性があります。
具体的には被保険者の平均標準報酬月額の2倍の金額が、現行の上限を超える状態が続くと、新しい等級が追加(上限が引き上げ)できると法律で定められています。
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参考資料
まき社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士 牧 あや
まき社会保険労務士事務所
