傷病手当金とは?支給条件や金額など基礎からわかりやすく解説
従業員が病気やケガで長期休業するとき、健康保険から傷病手当金を受けられます。労災保険など似たような給付金もあり、従業員に適切な情報を正確に伝える必要があります。
この記事では傷病手当金の制度を基礎から解説するとともに、申請手続きの実務や支給を受ける際に注意したいポイントなどを簡潔に紹介します。
【この記事のポイント】
- 傷病手当金は会社員などが病気やケガで仕事を休んだとき、給与の代わりに健康保険から支給される手当
- 業務外の理由による病気やケガが対象
- 休業が通算1年6ヶ月に達するまで、給与の約2/3が支給される
- 申請は郵送(事業主または本人)または電子申請(本人)で行う
※ 社会保険労務士は郵送・電子申請いずれも対応可
目次
傷病手当金とは
傷病手当金とは、会社員や公務員などが病気やケガで仕事を休んだとき、給与の代わりに健康保険から支給される手当です。
病気やケガで働けなくなると、基本的には給与が発生しません。そうした労働者の生活を守るための制度として設けられています。
対象
傷病手当金は会社員や公務員が加入する健康保険(協会けんぽ、健康保険組合など)の被保険者が対象の手当です。
正規・非正規雇用にかかわらず、社会保険に加入していればパートやアルバイトも対象です。
一方で健康保険で扶養されている家族(被扶養者)や、国民健康保険に加入している自営業者・個人事業主などは制度の対象外です。
労災保険との違い
健康保険(傷病手当金)と労災保険(休業補償給付)は、どちらも病気やケガで働けなくなった際の生活を保障する制度ですが、対象となる病気・ケガや支給される条件が異なります。
| 項目 | 健康保険 (傷病手当金) | 労災保険 (休業補償給付) |
|---|---|---|
| 対象となる 病気・ケガの原因 | 業務外の事由 (私生活での病気やケガ) | 業務上または通勤途中の事由 |
| 対象労働者 | 健康保険の被保険者 (協会けんぽ、健保組合など) | 労災保険の被保険者 (ほとんどの労働者) |
| 支給額の目安 | 給与(標準報酬日額)の約2/3 | 給与(給付基礎日額)の約80%(※) |
※ 労災保険の休業補償給付(60%)と休業特別支給金(20%)の合計額
そもそも傷病手当金は私生活の病気などが原因で働けなくなったときの本人と家族の生活を保障するセーフティネットであるのに対して、労災保険は業務が原因の病気などで働けなくなったときの損害を補償(カバー)するものです。
一般的には労災保険の方が手厚い保障を受けられます。
ちなみに同じ病気やケガに対して、両方の制度から全額を受け取ることはできません。原則として労災保険が優先されます。
関連記事:【初級】労災保険とは?仕組みや適用範囲、給付金の種類を解説
支給条件と支給期間
傷病手当金が支給されるためには以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の原因による病気・ケガの療養であること
- 療養のために働けないこと
- 連続3日間の待期期間を満たしていること
- 休業した期間に給与の支払いがないこと
① 業務外の事由による病気・ケガの療養であること
仕事や通勤とは関係のないプライベートな理由で患った病気やケガが対象です。特定の病名に限定されず、例えば以下のような例が挙げられます。
- 一般的な病気・ケガ
がん、骨折など - 精神疾患
うつ病、適応障害など - 妊娠関連
重度のつわりなど
単なる疲労や軽い風邪、病気ではないもの(美容整形など)は傷病手当金の対象外です。
また保険診療だけでなく、自費診療による療養も傷病手当金の対象です。
② 療養のために働けないこと
「これまで従事していた業務ができない状態」で療養が必要なときに支給されます。
「労務不能」だという医師の意見書を参考に、最終的には保険者(協会けんぽなど)が業務内容なども加味した上で「働けないこと」を判断します。
③ 連続3日間の待期期間を満たしていること
傷病手当金は無制限にもらえるものではなく、後述する支給期間が定められています。
病気やケガで仕事を休み始めて最初の3日間は「待期」期間とされ、4日目以降から支給されます。
※ 待期の3日間は連続する必要があります。また3日間には「有給休暇」や「土日祝日」などを含めることができます。
④ 休業した期間に給与の支払いがないこと
「給与がない期間の生活を保障するための制度」であるため、有給休暇の使用などで給与が支払われている間は支給されません。
ただし、給与が支払われたときで傷病手当金の日額よりも少ないときは、その差額が支給されます。
支給期間(2022年に「通算化」)
傷病手当金の支給期間は待期3日が完成した翌日から通算して1年6ヶ月です。
傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間とする。
出典:健康保険法 第99条第4項
この支給期間の考え方は2022年1月の法改正により大きく改善されています。
- 改正前: 支給開始日から「連続して1年6ヶ月」
- 改正後: 支給開始日から「通算して1年6ヶ月」
改正前は途中で復職した期間もカウントが進み、1年6ヶ月が経つと、受給の権利がなくなってしまっていました。
そこで改正によって通算化されたことで、がんや精神疾患などの再発しやすい病気で一度復職したあとも、将来のために手当を受けられる期間を残しておけるようになりました。

ただし通算で1年6ヶ月を使い切った後に再発した場合は、原則、同一の病気・ケガである限りは新たに受給することはできません(例外として社会的治癒の考え方あり)。
傷病手当金はいくら?計算方法・早見表
傷病手当金の支給金額は以下の計算式で算出されます。
| 1日あたりの支給金額 = 過去12ヶ月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3 |
ざっくり、給与の2/3が支給されるイメージです。
例:支給開始日が2026年5月15日、2025年6月から2026年5月までの標準報酬月額が20万円の場合
- 20万円 ÷ 30 ≒ 6,670円(四捨五入して10円単位に)
- 6,670 × 2/3 = 4,447円(四捨五入して1円単位に)
→1日あたりの支給金額 = 4,447円
【上記の計算式で導いた支給金額の目安】
| 過去12か月の 標準報酬月額の平均 | 1日あたり支給額 (目安) |
|---|---|
| 20万円 | 4,447円 |
| 25万円 | 5,553円 |
| 30万円 | 6,667円 |
| 35万円 | 7,780円 |
| 40万円 | 8,887円 |
| 45万円 | 10,000円 |
| 50万円 | 11,113円 |
健康保険の加入期間が12ヶ月未満の場合
健康保険の加入期間が12ヶ月未満で「過去12ヶ月の標準報酬月額の平均額」が出せないときは、その代わりに以下いずれかの低い額を使用して計算します。
- 支給開始日月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
- すべての被保険者の標準報酬月額の平均額:32万円(協会けんぽ、2026年度)
(前年度9月30日時点の全被保険者の平均額)
「すべての被保険者の標準報酬月額の平均額」は毎年更新されます。
傷病手当金の申請手続き(協会けんぽの場合)
傷病手当金の申請フローや事務手続きを確認しておきましょう。申請は郵送と電子申請による方法があります。
【健康保険 傷病手当金支給申請書】
(クリックで拡大できます)
1枚目・2枚目(被保険者記入用)

3枚目(事業主記入用)

4枚目(療養担当者記入用)

①「郵送」で申請(被保険者本人または事業主)
- [被保険者本人] 業務外の病気・ケガで会社へ休業を報告
- [被保険者本人] 協会けんぽの公式サイトから最新の申請書をダウンロードし、1・2枚目を記入
- [医師] 労務不能であることを証明し、4枚目の「療養担当者記入用」を記入(作成に数週間かかることも)
- [事業主] 3枚目の「事業主記入用」を記入し休業期間・給与不支給を証明。管轄の協会けんぽ支部へ郵送(被保険者本人から郵送してもOK)
- [協会けんぽ] 審査を行う。不備があると書類が返戻される
- [被保険者本人] 本人に支給決定通知書が届き、指定口座に手当金が振り込まれる
また被保険者の状況に応じて以下の添付書類が必要なことがあります。
- 健康保険加入状況等申告書
- 年金給付額等がわかる書類
- 休業補償給付支給決定通知書のコピー
- 第三者行為による傷病届
- 被保険者との続柄がわかる「戸籍謄本」等
- 本人確認書類 など
詳しくは以下のリンクをご確認ください。
出典:健康保険傷病手当金支給申請書|健康保険給付の申請書|申請書|協会けんぽ
② 電子申請(被保険者本人)
傷病手当金の申請は2026年1月からオンラインによる電子申請に対応しました。
関連記事:協会けんぽの傷病手当などが電子申請に対応|けんぽアプリも解説
2026年現在、事業主は電子申請を使えません。
- [医師] 労務不能であることを証明し、「傷病手当金支給申請書 療養担当者記入用」に記入
- [事業主]「傷病手当金支給申請書 事業主記入用」を記入し休業期間・給与不支給を証明
- [被保険者本人 / 社労士] 電子申請サービスから1、2の申請書を添付して申請
- [協会けんぽ] 審査を行う。審査状況は電子申請サービスから確認できる
- [被保険者本人] 本人に支給決定通知書が届き、指定口座に手当金が振り込まれる
※ 1、2は「届書・申請書作成支援」を使用してパソコンで入力作成できます。事業主が作成したデータはPDFで被保険者へ送付するのが最もスムーズです。
社会保険労務士は郵送・電子申請対応可
また委託を受けた社会保険労務士は郵送・電子申請いずれの方法でも対応できます。
申請・振込のタイミング
傷病手当金は過去2年以内であれば遡って申請できますが、長期療養の場合は月に1回、1ヶ月分ずつ申請するのが一般的です。
傷病手当金の目的は生活のセーフティネットですので、毎月申請して決まったサイクルで支給されるのが制度の趣旨にも即しています。
事業主側も毎月の給与計算に合わせて休業期間・給与不支給の証明を行うことで事務処理がスムーズになります。
ちなみに初回申請時は入念に審査が行われ、入金までに数ヶ月かかることがあります。2回目以降の申請は、協会けんぽであれば受付から10営業日程度で入金されます。
傷病手当金に関する注意点・よくある質問
最後に傷病手当金に関する補足、注意点、担当者や被保険者本人が抱きがちな疑問への回答をまとめます。
支給の調整がある
傷病手当金を他の公的な手当や保険金と同時受給すると、調整されることがあります。
【主な支給調整】
- 出産手当金
出産手当金の支給が優先され、その期間は傷病手当金は不支給 - 障害年金
同じ病気やケガで障害厚生年金が支給される場合、傷病手当金は不支給 - 老齢年金
退職後に傷病手当金を支給されていて老齢年金を受け取れるようになった場合、傷病手当金が停止 - 労災保険(休業補償給付)
休業補償給付を受けている期間は、傷病手当金は不支給(先述) - 雇用保険(失業給付)
支給条件が相反するため同時受給は不可
社会保険料の免除がない
傷病手当金を受給しながら休職した場合でも、その期間に社会保険料が免除される制度はありません。休職中でも健康保険料・厚生年金保険料は事業主を通して支払い続けます。
また休職中に4月〜6月が含まれる場合、この3ヶ月が無給であったとしても、これまでの標準報酬月額で引き続き定時決定する扱いとなります。
不支給になる(もらえない)ケース
傷病手当金を申請して不支給になる主なケースは以下のとおりです。
- 業務上、または通勤中の病気・ケガである
- 待期3日間が完成していない
- 給与が支払われている
- 他の公的給付を受けている(先述)
- 退職日に出勤した(退職後も受給する場合)
もらわないほうがいいケースはある?
「傷病手当金 もらわないほうがいい」と検索されることがよくあります。様々な考え方がある前提でもらわないほうがいいと判断される根拠には以下のような例があります。
- 有給休暇を優先した方が本人の受取額が多い
- 同一の傷病は1年6ヶ月までしか受けられない
- 失業給付(失業保険)を受けられる
- 他の年金や手当を受けられる
中には根拠のない噂レベルの情報で「もらわないほうがいい」と語られることもありますが、生活の維持に必要であれば受給すること自体に何の問題もありません。
就業規則と傷病手当金の関係は?
傷病手当金は健康保険から支給される公的な給付であり、事業主のルール(就業規則)とは関係ありません。
ただし、仮に就業規則に「病気欠勤中も給与が支払われる」と明記されている場合、傷病手当金の条件を満たさず不支給または減額される可能性があります。
「見舞金」を支払うと傷病手当金は調整される?
見舞金は労働の対価としての「給与」ではないため、傷病手当金が調整される可能性は低いです。
全額自費で受診したものも対象ですか?
全額自費で受診した場合であっても、医師の証明があれば申請できます。
同じ病気にかかわる傷病手当金は複数回支給されませんか?
原則として傷病手当金の支給期間は通算1年6ヶ月で、以降は同一の病気・ケガによる療養では支給されません。
しかし生涯にわたって二度と支給されないというわけではなく「社会的治癒」が認められた場合などは再度、支給されることがあります。
社会的治癒とは「医学的にはまだ完全に治っていなくても、社会保険の運用上、治癒したとみなす」という考え方です。
社会的治癒と認められるためには、当分の間、治療を行う必要がなくなり、通常の勤務に就いた実績が必要です。ただしこの場合も協会けんぽなどの保険者が最終的に判断します。
一度復職して1年6ヶ月の範囲で再度休職する際はどうすればよいですか?
傷病手当金は、通常1ヶ月ごとに「申請書」を提出します。一度復職して期間が空いた後に再度休む場合も、改めて先述の書類を揃えて保険者へ申請します。
ただし通算1年6ヶ月の範囲内で再申請する場合は、3日間の待機期間なく支給を受けられます。
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岡山市のまき社会保険労務士事務所では「お客様の悩む時間をゼロにしたい」という思いのもとで、社会保険等届け出・就業規則の作成・給与計算・助成金等の申請を行っています。
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まき社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士 牧 あや
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