円満に従業員を解雇する方法と手順|法的リスクを抑えるポイント
会社を経営していると能力不足や勤務態度の不良など、改善が見られない従業員の解雇を検討しなければいけないことがあります。
ただ解雇は従業員の人生や生活に大きく影響することであり、日本の法律では厳しい制限があります。どのような場合に解雇が認められるのか、法的なリスクや不要なトラブルを避けるための手続きなど、正確に理解しておく必要があります。
【この記事でわかること】
- そもそも従業員解雇はできるのか?
- どんなときに認められるのか
- リスクを抑えた解雇手続きの流れ
目次
解雇の基本原則
従業員の解雇は、会社(使用者)が従業員との雇用契約を「会社側の都合で一方的に終了させること」です。一般には「クビ」と言われることもあります。
解雇は従業員にとっては収入を失うだけでなく、自己成長の機会や社会的信用も失う重大なことであり、日本では法律によって厳しい制限があります。
前提「解雇権濫用法理」による法的な厳しい制限
日本では「解雇権濫用法理(労働契約法第16条)」により、解雇が厳しく制限されています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、かつ、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
出典:労働契約法
「客観的に合理的な理由」について、誰が見ても納得できる明確な理由がなければ、会社は従業員を解雇できません。
また「社会通念上の相当性」について、解雇がその理由に対して重すぎないか、世間の常識から見て妥当かが求められます。
この2つをいずれも満たしていなければ解雇は無効になります。
就業規則への明記が必要
また、どのような場合に解雇となるのかを、就業規則や労働契約書に具体的に記載して、従業員に分かりやすく周知しておく必要があります。
内容が不明確だったり、周知が不十分な場合、解雇はできません。
関連記事:【基礎】就業規則の作り方を丁寧に解説
解雇の種類と認められるための条件
解雇はその理由から、大きく分けて3種に分類されます。それぞれの解雇の概要と、解雇が認められる可能性がある主な状況例は以下のとおりです。
| 種類 | 主な適用状況 |
|---|---|
| 普通解雇 従業員の勤務態度不良や能力不足、 健康上の理由など、個別の事情に基づいて 行われる解雇 | ・長期の無断欠勤や遅刻・早退の繰り返し ・著しい業務遂行能力の不足 ・病気やけがによる業務遂行困難 ・職場規律に反する行為 など |
| 懲戒解雇 不正行為や犯罪行為など、重大な社会規律違反 を行った場合に、制裁として即時に雇用契約を 終了させる最も重い解雇処分 | ・横領・窃盗・着服などの刑法犯 ・重大な背任行為 ・セクハラ、パワハラ等の重大なハラスメント ・会社の機密漏洩、重大な虚偽申告など、 著しい信用失墜行為 など |
| 整理解雇 ※ 会社の経営悪化や事業縮小など、 従業員に特別な落ち度がなくても行われる 経営都合による解雇 | ・赤字や売上減少で人件費削減が不可避 ・事業の廃止や統合に伴う人員整理 ・経営再建のための合理化 など |
※ 「整理解雇」には解雇の原則的な条件に加えて、「整理解雇の4要件」(必要性、避けるための努力、対象者選定の合理性、労働者側との十分な協議)が必要
例えばよく「従業員の能力不足・勤務態度不良は解雇理由になるのか?」という質問が挙がることがあります。
結論、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」があるならば、それは解雇理由になる可能性があります。
一方で、例えば「成長過程や一時的なミス」「一度の軽微な遅刻やトラブル」での解雇は、合理的な理由や相当性が認められることはないでしょう。
解雇そのものが禁止されている主なケース
各法律によって、特定の期間や理由による解雇が禁止されているものもあります。
| 種類 | 禁止内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 時期 | 業務上のケガや病気で療養中・ その後30日間の解雇 | 労働基準法第19条 |
| 産前産後休業中および その後30日間の解雇 | 労働基準法第19条 | |
| 差別的・ 不当な理由 | 国籍・信条・社会的身分による解雇 | 労働基準法第3条 |
| 性別・婚姻・妊娠・出産による解雇 | 男女雇用機会均等法 第6条・第9条 | |
| 権利行使 | 育児・介護休業の取得 を理由とする解雇 | 育児・介護休業法 第10条 など |
| 労働組合活動を 理由とする解雇 | 労働組合法第7条 | |
| 労働基準監督署等への申告・ 公益通報を理由とする解雇 | 労働基準法第104条第2項 公益通報者保護法第3条 |
不当解雇のリスク
上記の法律などで定められた要件を満たさない、または禁止されている理由や手続きで従業員を解雇することには、経営者や人事労務担当者に多大なリスクがあります。
不当解雇の主なリスク
- 「解雇の無効」リスク
そもそも解雇自体が無効となり、従業員の復職や未払賃金(バックペイ)の請求が認められる - 「損害賠償・慰謝料請求」リスク
損害賠償や慰謝料を請求されるリスク。会社の経済状況に大きな影響がある - 「法的紛争の長期化」リスク
労働審判や裁判、労働局のあっせん申し立てなどに多大な時間・コストがかかる - 離職率の増加やモチベーション低下
企業の信用が低下することで、採用活動や取引先との関係に悪影響がある、既存社員の離職率の増加やモチベーション低下
パート・アルバイト・試用期間中の従業員の解雇
「パート・アルバイト・試用期間中の従業員なら、すぐに解雇できる」という誤解も多いですが、基本的な考え方は正社員と同じで解雇権濫用法理が適用されます。
試用期間社員の本採用を拒否する場合も同様で、合理的な理由や解雇の相当性が求められます。
関連記事:試用期間
解雇の前に知っておきたい解雇以外の選択肢
説明してきたように従業員の解雇は非常に慎重に行わなければならず、避けられるに越したことはありません。そこで解雇を考える前に検討したい「解雇以外の選択肢」を紹介します。
配置転換や教育・指導による改善の試み

解雇に踏み切る前に配置転換をしたり、教育・指導で改善を試みることは、会社が取るべき重要なステップです。
法律で定められているわけではありませんが、法の趣旨や過去の判例から、万が一解雇になったときの「客観的合理的な理由」を補強することにもつながります。
- 配置転換(部署異動など)
仕事内容や部署を変えることで従業員の能力や適性を活かせる可能性を探る。本人の希望も配慮すると効果的 - 教育・研修の提供
必要なスキルや知識が不足している場合は、OJT(実務指導)や社内外研修に参加させる - 個別の指導・面談
上司が本人と面談し、問題点を具体的に指摘した上で改善計画を立て、目標や対応策を一緒に確認する - 書面による注意喚起や指導記録
公平性の確保や後のトラブル防止のために、指導内容や本人に伝えた事項を記録に残しておく
退職勧奨
退職勧奨(たいしょくかんしょう)は、従業員に「自発的に退職してほしい」と促す行為です。雇用契約を一方的に終了させるのではなく、本人の意思で、円満に退職を決断してもらうことを指します。
退職勧奨をするには、勤務状況や会社の都合を踏まえて退職を打診し、話し合いの上で、従業員が自分の意思で退職届を提出する必要があります。必ず両者の「合意」に基づくものであり、従業員が拒否したのに何度も迫ったり、精神的に圧力をかけるのは「退職の強要」とみなされるリスクがあります。
従業員が退職に応じる場合は、退職金を上乗せしたり、転職を支援するなど、会社としての誠意を見せることも重要です。
従業員を解雇する流れと注意点
従業員を解雇する流れを注意点を踏まえてお伝えします。
- 解雇の検討・事前確認、意思決定
- 解雇予告の通知
- 解雇予告手当の支給
- 退職確定後の事務手続き
1. 解雇の検討・事前確認、意思決定
- 解雇を検討する理由の整理と、客観的な証拠(記録・勤怠データ・業績など)を揃える
- 解雇について就業規則・雇用契約書に明記され、本人に周知されていることを確認する
- 先述の解雇を検討する前の「改善の試み」を行う
- 社労士や弁護士などに相談し、リスクと進め方を共有する
上記の検討、確認を行い、それでも改善が見られず、解雇しか選択肢が残されていない場合にのみ、解雇の意思決定を行います。
2. 解雇予告の通知(解雇30日前までに)
従業員を解雇する場合は、原則、30日前までに「解雇予告」を行う必要があります。解雇予告は口頭でも有効とされていますが、トラブル防止や記録を残すため「解雇予告通知書」を作成するのが望ましいです。
【解雇予告通知書の記載事項】
- 解雇日
- 解雇予告日(通知日)
- 解雇の理由
3. 解雇予告手当の支給(即日解雇の場合)
30日前までに解雇予告を行わずに即日で解雇する場合は、30日分(以上)の平均賃金(解雇予告手当) を解雇日までに支払う必要があります。
1日あたりの平均賃金は以下の計算式で求めます。
| 直近支払われた3ヶ月の賃金総額(残業代、手当を含む)÷ 3ヶ月の日数(暦日数) |

また、例えば解雇日の20日前に解雇予告を行った場合は、原則ルールの30日に足りない分(10日分)は、解雇予告手当を支払います。
※「従業員の責に帰すべき理由による解雇」「天災地変等により事業の継続が不可能となった場合」などは、労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けることで、解雇予告や解雇予告手当の支払いを不要にできることがあります。
退職確定後の事務手続き
- (従業員から請求があった場合)解雇理由を記載した書面(解雇理由証明書)を交付
- 未払い賃金、退職金の支給
懲戒解雇の場合でも、就業規則に規定がなければ、退職金を減額・不支給にできない可能性あり - ハローワークでの手続き
雇用保険喪失届と離職証明書を提出し、元従業員に離職証明書を交付 - 社会保険の資格喪失手続き
健康保険証を返還してもらい、年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出 - 住民税や所得税の手続き
従業員の解雇にかかわる相談先
従業員の解雇は慎重に対応するためにも、専門家に相談しながら進めるのが大切です。
主要な相談窓口は以下のとおりです。
- 社会保険労務士
労務管理や労働法の専門家で、就業規則の整備、解雇の判断や解雇手続きなど現場に即したアドバイスを受けられる - 弁護士
解雇トラブルや訴訟リスクがある場合、適切な助言や対応を受けられる - 労働局・労働基準監督署
労働条件や解雇の基礎、トラブル防止策の説明を受けられる - 総合労働相談コーナー
厚生労働省の公的な無料相談窓口。電話や窓口で、解雇や労使トラブル全般について個別に相談できる
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まずは顧問契約を結んでいる社会保険労務士や弁護士など、会社の状況を理解してくれている相手に相談するのが良いでしょう。
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参考資料
まき社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士 牧 あや
まき社会保険労務士事務所
