2028年4月 ストレスチェックが50人未満企業でも義務化。制度をわかりやすく解説

2026年06月15日

2025年5月の改正労働安全衛生法の公布により、2028年4月までにこれまで「努力義務」だった従業員50人未満の小規模事業場においても、ストレスチェックの実施が全面的に義務化されることが決まりました。

事業者視点ではストレスチェックの義務化は「追加コスト」と考えてしまいがちですが、小規模な事業者ほど労働者のメンタル不調による欠員は経営に大きな影響を及ぼします。「経営への投資」と捉えて、制度の趣旨と内容を理解することが求められます。

この記事ではストレスチェックの完全義務化について、制度や具体的な手順などを、最新の動向をもとにお伝えします。

 【この記事のポイント】

  • これまで従業員50人以上の事業者が対象だったストレスチェックの実施が、2028年4月から50人未満も含む全ての事業者で義務化される
  • ストレスチェックの目的は「治療」ではなく「一次予防」
  • 1年以内ごとに1回以上の検査・高ストレス者が希望したときの面接の実施、労働基準監督署への報告などの義務がある
  • 「団体経由産業保健活動推進助成金」などを使うことで実施コストを抑えられる

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企業のストレスチェックの義務化

ストレスチェック制度は、労働者が自分のストレスの状態を把握し心の病気を未然に防ぐための検査と、その結果にもとづきフォローアップを行う一連の仕組みです。

2015年、労働安全衛生法により従業員50人以上の事業場において、ストレスチェックの実施が義務化されました。

それ以前からも企業のメンタルヘルス対策は行われていましたが、不調になった後の対応(治療など)が中心でした。この制度は、労働者が不調になる前にストレスに気づき、また事業者が職場環境を改善することで不調そのものを防ぐ「一次予防」を目的としています。

2028年4月から全事業場が対象に(50人未満も義務化)

さらに2025年5月に改正労働安全衛生法が成立し、3年以内の猶予期間を設けて、50人未満の事業場を含む事業場でストレスチェックを義務化することが決まりました。その後、政府は2028年4月からの施行方針を発表しています。

これまで従業員50人未満の事業場のストレスチェックは「努力義務」でしたが、50人以上の事業場に比べて実施率が低いことが課題でした。

出典:令和7年版過労死等防止対策白書 〔 概要版 〕|厚生労働省

今回の完全義務化はこうした事業場の規模によるメンタルヘルス対策の格差を解消することを目的としています。

関連記事:もはや当たり前?「静かな退職」が企業にもたらすデメリットと予防策

対象労働者

以下、いずれかを満たす「常時使用する労働者」がストレスチェックの対象となります。

  • 期間の定めのない契約、または1年以上使用される予定がある(またはすでに1年以上使用されている)
  • 週の労働時間が、その職場の一般社員の4分の3以上

この条件を満たしていれば、正社員だけでなくパートタイマーやアルバイトも受検対象です。

なお派遣労働者は派遣先の会社ではなく、雇用契約を結んでいる派遣元の会社が実施する義務を負います。

小規模事業場が実施するメリット

小規模な事業場におけるストレスチェックの導入は法的な義務を果たすことだけでなく、人材の定着や生産性の向上といった経営上の大きな利益につながります。

  • 人材損失の回避
    平均約3ヶ月に及ぶメンタルヘルス不調による休職や、復職後も約半数が経験するとされる再発・再休職を未然に防ぎ、人材を守ることができる
  • 生産性の向上と経営の安定
    心身ともに健康な状態で業務に取り組めるようになり、労働生産性が上がる。結果、経営の安定につながる
  • 職場の課題の可視化と改善
    部署や職種などの単位で検査結果を集計・分析(後述)することで、職場環境のどこに問題があるのかを客観的に把握でき、具体的に対策できる
  • 人材の確保と定着(企業価値の向上)
    従業員を大切にする会社として離職を防ぐだけでなく、新規採用の強みになる

ストレスチェックの内容

ストレスチェック制度で事業者は以下の7点を対応する必要があります。

  1. 社内制度の整備
    実施の基本方針を定め、具体的な方法や情報の取扱いルールなどを社内規程に明文化し、労働者に周知する
  2. 実施者などの決定
    検査を行う「実施者(医師や保健師など)」、その補助をする「実施事務従事者」を指名する
  3. ストレスチェックの実施(1年以内ごとに1回)
    労働者に質問票(57項目の「職業性ストレス簡易調査票」など)や厚生労働省のツールなどを使って受検させ、ストレス状態を点数化する
  4. 実施者による分析結果の通知と高ストレス者の選定
    実施者(医師など)は結果を分析し、労働者本人へ直接通知する。ストレスの程度が高い「高ストレス者」を選定する(事業者は本人の同意なしに結果を見ることはできない)
  5. 医師による面接指導
    高ストレス者と判定された労働者が希望したとき、事業者は医師による面接指導をセッティングする
  6. 就業上の措置
    事業者は医師の意見を参考に必要に応じて仕事の量を調整したり、部署を異動させるなど、労働者の健康を守るための措置を講じる
  7. 記録の保存と労働基準監督署への報告
    ストレスチェックの結果・実施者による面接指導の記録は5年間保存する。また、制度の実施状況を毎年、労働基準監督署へ報告する

(参考)職業性ストレス簡易調査票(57 項目)

出典:厚生労働省

【重要】個人のプライバシーの保護

上記の流れでも触れましたが、個別のストレスチェック結果はとてもプライバシー性が高い情報であり、本人の同意がない限り、事業者に提供されることはありません。

一方で事業者には努力義務ではあるものの「部署ごとで結果の集計・分析(集団分析)を行い、職場全体のストレス傾向を把握して環境改善に役立てる」ことが推奨されています。

そこで原則、集計の単位が10人以上の集団であれば、労働者個人の同意を得ることなく、集団分析の結果を事業者が受け取ることが認められています。個人の評価をするためではなく、あくまで「◯◯部は仕事量が多すぎるから改善の必要がある」など、働きやすい環境をつくるための措置です。

注意事項

その他、ストレスチェック実施を怠った場合の主な罰則やリスクは以下のとおりです。

  • 労働基準監督署への報告義務違反(罰金)
    報告を怠ったり虚偽の報告をすると、50万円以下の罰金に処される
  • 安全配慮義務違反(損害賠償)
    事業者に義務付けられた「安全配慮義務」を怠ったとして、不調に陥った労働者から損害賠償を請求されるリスクがある
  • 守秘義務違反(刑罰)
    医師、保健師、事務職員などが検査で得た秘密を漏らしたとき、刑罰の対象になる
  • 不利益な取扱いの禁止
    高ストレス者が医師による面接指導を申し出たことなどを理由に、解雇や降格といった不利益な取扱いをすることは禁止されている

ストレスチェックの費用や公的サービス

上記のようにストレスチェックには相応の手間と費用がかかり、また産業医がいない小規模の事業者は、新たに業務を外部委託することも検討しなければいけません。

ここではストレスチェックの費用相場や委託するときに使える公的なサービスを紹介します。

費用相場

検査の企画から質問票の配布・回収、医師(実施者)の手配、結果のデータ分析までを一括して委託できるサービスがあります。

こうしたサービスは初期費用が数万円、従業員1人あたり数百円〜1,000円程度を加算した料金が目安です。

  • 10人規模:約3万円〜5万円
  • 50人規模:約4万円〜7万円

また厚生労働省が無料で配布している「ストレスチェック実施プログラム」や、クラウドツール(1人あたり数百円)を使用して、社内(+産業医)だけで対応することもできます。

その場合、委託費はかかりませんが、担当者の人件費や実施者になってもらう医師等への費用(謝礼)が発生します。

「団体経由産業保健活動推進助成金」の活用

労働者50人未満の事業場の場合、「団体経由産業保健活動推進助成金」という制度を活用できることがあります(実施主体:独立行政法人 労働者健康安全機構(JOHAS))。

商工会などの事業主団体が申請し、傘下の中小企業にサービスを提供する仕組みで、ストレスチェックの実施にかかる経費の90%が助成されます。

まずは自社が加入している商工会議所や業界組合がこの助成金を使ったサービスを提供しているか確認してみましょう。

ただし、この助成金は予算に上限があり、年度の途中で受付が終了することが多々あるため、早めの計画と所属団体への確認が重要です。

※ 同機構が運営していた「ストレスチェック助成金(『ストレスチェック』実施促進のための助成金)は2022年度をもって廃止されました。

無料で使える公的支援サービス

上記のJOHASはストレスチェックにかかわる以下の公的支援も行っています。

  • 産業保健総合支援センター(さんぽセンター)の無料相談
    各都道府県に1ヶ所ずつ設置されている産業保健の総合コンサルティング窓口。検査の導入方法、法改正への対応など、専門家(医師・保健師・社会保険労務士など)に無料で相談できる
  • 地域産業保健センター(地さんぽ)による無料の面接指導
    各労働基準監督署の管轄ごとに設置されている実務対応の窓口。50人未満の小規模事業場で高ストレスと判定された従業員からの申し出に対し、無料で医師による面接指導(面談)を実施している

外部委託サービスや社労士に依頼するメリット

ストレスチェックの外部委託サービスや社会保険労務士にストレスチェックを依頼することで以下のようなメリットが期待されます。

※ 社会保険労務士は単独でストレスチェックの実施者にはなれませんが、「実施事務従事者」や、制度全体の「コンサルタント・窓口」として関わってもらうことができます。

  • 面倒な事務作業を丸投げできる
    質問票の配布・回収、未受検者への催促、結果の封入・発送などの社内担当者の負担を軽減できる
  • 「人事権の制限」をクリアできる
    法律で禁止されている 「人事裁量権のある者(役員や人事部長など)」が実施事務従事者になることを回避できる
  • 各種規程の整備にも対応できる(社労士)
    ストレスチェック制度にかかわる規程の作成はもちろん、休職や復職に関する社内ルールの策定などの相談・対応ができる。また集団分析から職場改善のアドバイスまで受けられる

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よくある質問

最後にストレスチェックの実施の義務化について、現場からよく上がる質問と回答をまとめておきます。

ストレスチェックは「質問票」に回答させるだけでも良いのですか?

ストレスチェックは労働者に質問票に回答させるだけでは不十分です。質問票による検査の実施だけでなく、その結果に基づく医師の分析、面接指導や職場環境の改善、実施報告までを含めた一連の対応が義務付けられています。

50人未満の事業場は2028年4月までに初回のストレスチェックを済ませる必要がありますか?

いいえ。2028年4月1日に「全事業場の義務化」が施行されるため、それから1年以内に初回のストレスチェックを実施する必要があります。

役員もストレスチェックの対象ですか?

役員(代表、取締役、監査役など)は原則、ストレスチェックの義務から除外されます。

ただし「取締役営業部長」や「取締役工場長」などの「使用人兼務役員」の場合は一般労働者と同様にストレスチェックの義務対象です。

また会社が独自にルールを定め、役員に任意でストレスチェックを受検してもらうことは問題ありません。

ストレスチェックの実施者は産業医以外でも問題ありませんか?

ストレスチェックの実施者は産業医以外の人であっても問題ありません。実施者になれる条件は以下のとおり。

  1. 医師(産業医も含む)
  2. 保健師
  3. 厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師

特に従業員が50人未満の小規模な事業場では産業医がいないケースも多いため、外部委託を利用したり、地域産業保健センター(地さんぽ)などの公的支援を活用するのが一般的です。

ただし日頃から自社の状況をよく知っている産業医に実施者になってもらうことが最も望ましいです。

一般的に「実施事務従事者」は誰が担いますか?

人事・総務・労務部門の担当者や一般社員、また実務を丸ごと委託する場合は外部のストレスチェック専門機関が担います。

ただし「人事裁量権のある者(役員や人事部長など)」は、実施事務従事者になることが固く禁じられています。

参考になる厚生労働省のパンフレットやページはありますか?

以下のパンフレットやページがわかりやすくておすすめです。

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    この記事の執筆者


    まき社会保険労務士事務所 代表

    社会保険労務士 牧 あや