退職後に傷病手当金を受給するための条件や手続き。会社側が行うことは?

2026年05月18日
傷病手当金 退職後

健康保険の制度である傷病手当金は、従業員が会社から退職したあとでも受給できます。

しかし条件を満たさなかったり手続きを誤ることで、最悪、受給の権利を失ってしまうこともあります。

この記事では従業員の退職後の傷病手当金の受給条件や申請手続きについて解説します。企業担当者としては「退職する従業員のことだから、もう関係ない」という姿勢ではなく、正しい情報を案内できるように基本的な知識だけでも身につけておきましょう。

 【この記事のポイント】

  • 退職後に傷病手当金を継続して受給するためには「被保険者期間が継続して1年以上ある」「退職日に受給中または受給資格がある」といった条件を満たす必要がある
  • 退職後の受給申請は受給者本人が行う
  • 事業主は退職日を含む申請分の「事業主記入欄」を記入・証明する義務がある

傷病手当金の基本(おさらい)

傷病手当金は会社員などが病気やケガで仕事を休んだとき、給与の代わりに健康保険から支給される手当です。

健康保険(協会けんぽ、健康保険組合など)の被保険者に対して、私生活での病気やケガ(業務外の事由)を対象に、給与の約2/3が最大1年6ヶ月支給されます。

傷病手当金の基本は以下の記事で解説しています。

関連記事:傷病手当金とは?支給条件や金額など基礎からわかりやすく解説

退職後も継続して受給できる

実際の現場では傷病手当金を受給して療養している従業員から「このまま退職したいが、傷病手当金は引き続きもらえるのか?」という相談を受けることがよくあります。

結論、傷病手当金は通算1年6ヶ月の期間内であれば、健康保険に加入している会社を退職した後も、引き続き受給できます。

以下では「退職後に受給する傷病手当金」に絞って、より詳しく確認していきます。

退職後の傷病手当金の受給

まず退職後も引き続き傷病手当金を受給し続けるためには、以下2つの前提条件を満たす必要があります。

  1. 被保険者期間が継続して1年以上あること
  2. 退職日に「受給中」または「受給資格」があること

1. 被保険者期間が継続して1年以上あること

退職日(=資格喪失日の前日)までに、健康保険に1年以上継続して加入していることが条件です(健康保険法第104条)。

在職中に傷病手当金を受給する際は健康保険の加入期間の条件はありませんでしたが、退職後も継続して受給するためには、こちらの条件を満たす必要があります。

例えば健康保険に加入して6ヶ月で傷病手当金の受給を開始し、加入期間10ヶ月で退職するような場合は、被保険者期間が1年に満たないため、退職(健康保険の脱退)と同時に傷病手当金の受給は終了します。

  • 以前の職場で健康保険に加入しており、1日も途切れることなく現在の職場の健康保険に加入した場合(以前の職場の退職日の翌日 = 現在の会社の入社日の場合)は、以前の職場からの加入期間を通算できます
  • 被用者保険の種類が協会けんぽと健保組合のように異なっている場合でも通算が認められます。国民健康保険の加入期間は通算の対象外です

2. 退職日に「受給中」または「受給資格」があること

退職日に傷病手当金を受給しているか、もしくは受給資格を満たしている必要があります。

【傷病手当金の受給資格】

  1. 業務外の原因による病気・ケガの療養であること
  2. 療養のために働けないこと
  3. 連続3日間の待期期間を完了させていること

【注意】退職日の出勤で傷病手当金がもらえなくなる

傷病手当金の退職後の受給で最も注意すべきことが、退職日は必ず出勤しない(させない)ということです。

退職日にデスクの片付けや引き継ぎ、挨拶などで少しでも出社して、会社が出勤扱いにしてしまうと、「療養のために働けない」という条件を満たせなくなり、そのまま退職してしまうことで、翌日以降の傷病手当金を受給する権利が全てなくなってしまいます。

必要な引き継ぎなどは退職日の前日までに済ませ、退職日当日は有給を取得するなど、自宅で療養することを徹底してください。

退職日に有給を取得すると、退職日当日の傷病手当金は支給されませんが、「退職日に療養のために働けない状態にあった」という条件は満たされるため、退職後の継続給付の権利は持続されます。

いつまで?支給期間の計算方法(通算1年6ヶ月)

退職後の支給期間は在職中と同じで待期3日が完成した翌日から通算して1年6ヶ月です。2022年に「通算」でカウントするように制度が改善されました。

例えば在職中に1年間分を受給している場合、療養が続く限り、退職後に残り6ヶ月分を受給できます。

退職後に加入する健康保険と傷病手当金への影響(任意継続、国保、扶養)

ところで療養中の従業員が退職する場合、一般的には以下いずれかの健康保険に加入することになります。

種別傷病手当金への影響
任意継続・受給資格に変化なし
・任意継続には傷病手当金の給付はなく、あくまで退職前から受給していた傷病手当金を受け取り続ける
国民健康保険・受給資格に変化なし
・申請先は元の健康保険(後述)
家族の扶養に入る傷病手当金の日額が一定以上あると扶養認定されないことがある

特に注意すべきことが家族の健康保険の扶養に入るパターンです。

傷病手当金は在職時の給与の約2/3の金額が支給されるため、健康保険の扶養認定の条件である130万円(日額3,612円相当)を超えてしまう可能性は十分ありえます。

傷病手当金を受給していて健康保険の扶養に入ろうとする人は雇用契約がない状態なので、契約ベースで扶養を判定する「2026年新基準」の対象外です。引き続き、収入見込み(傷病手当金の日額×360日)をもとに扶養認定の可否が判断されます。

※ 健保組合によっては独自の扶養認定の基準を設けていることがあるため、事前に確認が必要です。

関連記事:2026年4月「社会保険130万円の壁」緩和へ。扶養認定のルール変更により

退職後の申請方法

退職後の傷病手当金の申請は受給者本人が行います。

退職後の申請先

退職後の申請は「元の健康保険」に対して行います。国民健康保険に切り替えていたり、家族の健康保険の扶養に入った場合でも、「現在の健康保険」ではない点には注意が必要です。

申請書と申請方法

基本的な申請手順は「在職中」と同じです。申請は郵送と電子申請による方法があります。以下は「在職中」の原則的な申請手順です。

【健康保険 傷病手当金支給申請書】
(クリックで拡大できます)

1枚目・2枚目(被保険者記入用)

3枚目(事業主記入用)

4枚目(療養担当者記入用)

【① 郵送】

  1. [被保険者本人] 業務外の病気・ケガで会社へ休業を報告
  2. [被保険者本人] 協会けんぽの公式サイトから最新の申請書をダウンロードし、1・2枚目を記入
  3. [医師] 労務不能であることを証明し、4枚目の「療養担当者記入用」を記入(作成に数週間かかることも)
  4. [事業主] 3枚目の「事業主記入用」を記入し休業期間・給与不支給を証明。管轄の協会けんぽ支部へ郵送(被保険者本人から郵送してもOK)
  5. [協会けんぽ] 審査を行う。不備があると書類が返戻される
  6. [被保険者本人] 本人に支給決定通知書が届き、指定口座に手当金が振り込まれる

出典:健康保険傷病手当金支給申請書|健康保険給付の申請書|申請書|協会けんぽ

【② 電子申請】

  1. [医師] 労務不能であることを証明し、「傷病手当金支給申請書 療養担当者記入用」に記入
  2. [事業主]傷病手当金支給申請書 事業主記入用」を記入し休業期間・給与不支給を証明
  3. [被保険者本人 / 社労士] 電子申請サービスから1、2の申請書を添付して申請
  4. [協会けんぽ] 審査を行う。審査状況は電子申請サービスから確認できる
  5. [被保険者本人] 本人に支給決定通知書が届き、指定口座に手当金が振り込まれる

関連記事:協会けんぽの傷病手当などが電子申請に対応|けんぽアプリも解説

退職後申請の「事業主(会社)記入欄」

ここで「退職者」「会社」双方にとって最も気になるのが、退職後は申請書3枚目の「事業主記入欄」はどうすればよいのかということだと思われます。

結論、退職日を含む申請分については、会社に記入・証明する義務があり、退職したから、という理由で断ることはできません。

ただし退職日以降の期間だけを申請する場合は、3枚目「事業主記入欄」は不要になります。つまり退職後に会社が証明しなければならないのは、最大で1回ということになります。

申請スケジュール

傷病手当金の申請期限は「労務不能であった日(働けなかった日)ごとに、その翌日から2年間」です(先述のとおり支給申請できるのは通算1年6ヶ月です)。

そのため退職後にしばらくしてからまとめて申請することもできますが、申請書類を集める作業が煩雑になるため、1、2ヶ月ごとに定期的に申請するのが良いでしょう。

不備などなければ、申請の受付から10営業日程度で入金されます。

その他の「退職後の受給」に関するよくある疑問

最後に傷病手当金の退職後の受給について、退職者、事業主双方からよくある質問と回答をまとめます。

退職後に新たに発症した病気やケガも傷病手当金の対象ですか?

いいえ。傷病手当金の退職後の継続受給は在職中から療養していた病気やケガが対象です。

在職中に傷病手当金の申請は一度も行っておらず、退職後に初めて申請することはできますか?

先述の退職後の継続給付の要件を満たしていれば、受給できます。

特に重要なのが在職中に3日間の待期期間を完了させておくことであり、退職日に就労不能で出勤していないことが要件です。

傷病手当金と失業給付はいっしょに受給できますか?

同じ期間に受給することはできません。

傷病手当金は「病気やケガで働けない人」のための保障であり、失業給付は「就労の意思と能力があり求職活動中だが、まだ就職できていない人」のための制度であるため、条件が相反します。

ただし傷病手当金の受給中は、ハローワークで失業給付(雇用保険)の受給期間延長の申請ができます(本来の1年+延長3年で最長4年)。そうすることで傷病手当金の受給を終えて回復し、求職活動できるようになった時点で、延長していた失業給付を受け取ることができます。

関連記事:【25年4月】失業給付(基本手当)が1ヶ月で支給。雇用保険法の改正を解説

その他、障害年金や老齢年金、出産手当金なども同時受給の制限があります。

傷病手当金を受給しながら転職活動するのは問題ないですか?

傷病手当金の受給は「就労不能」なことが条件ですので、求職活動することは矛盾をはらんだ状態と言えます。

ただし求職活動をすること自体が法律で禁止されているわけではないため、例えば「求人検索」程度であれば認められることもあります。一方で企業への応募や面接参加などは「就労可能」と判断され、傷病手当金が停止する可能性があります。

傷病手当金を受給したら確定申告は必要ですか?

傷病手当金は所得税法第9条における非課税所得にあたるため、原則、確定申告は不要です。

ただし、年の途中で退職した場合は、源泉徴収されていた税額が過払いになっていることが多く、確定申告することで還付を受けられる可能性があります。

健康保険について相談するなら、まき社会保険労務士事務所へ

岡山市のまき社会保険労務士事務所では「お客様の悩む時間をゼロにしたい」という思いのもとで、社会保険等届け出・就業規則の作成・給与計算・助成金等の申請を行っています。

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    この記事の執筆者


    まき社会保険労務士事務所 代表

    社会保険労務士 牧 あや