もはや当たり前?「静かな退職」が企業にもたらすデメリットと予防策
近年、「静かな退職」と呼ばれる働き方をする従業員が増えています。
以前は熱心だったが残業をしなくなったり、積極的にコミュニケーションを取らなくなったりと、「最低限の仕事」しかしなくなってしまった従業員に対して、どうすればよいのか対応に困っているマネジメント層は多いかもしれません。
今回は経営者や管理職の視点で「静かな退職」の概要や背景、対応策を紹介します。
【この記事でわかること】
- 静かな退職の起源や実態、生まれた背景
- 静かな退職による企業への影響
- 企業は静かな退職とどう向き合ったら良いのか
目次
「静かな退職」(Quiet Quitting)」とは?実態と背景
静かな退職(Quiet Quitting)は、「従業員が会社を辞めるわけではないが、仕事には積極的に関与せず、必要最低限の業務だけを淡々とこなす働き方」を表す言葉です。
2022年にキャリアコーチのブライアン・クリーリー氏(アメリカ)がSNS上で「#quietquitting」というハッシュタグを使い、動画を投稿したことが起源とされています。
その後、若い世代の働き方のトレンドとして世界中に広まり、日本でも注目されるようになりました。
「静かな退職」を実践する従業員の具体的な行動には以下のようなものがあります。

原因と社会背景(労働者からの視点)
静かな退職が起こる原因や社会背景は以下のように考えられています。
- 働き方・価値観の多様化
過度に自己犠牲するよりも、ライフスタイルを優先する、無理に頑張らない自分を認める風潮 - 職場への期待や信頼の低下
会社への貢献が正当に評価されない、業務に対する感謝や相応の報酬が得られない - 業務過多・疲労感
長時間労働や目標に対するプレッシャーにより、精神的に疲弊して - コミュニケーションの希薄化
リモートワークの進展や、上司からの評価・フィードバック不足
静かな退職の原因は一つではなく、様々な要素が絡み合い、必然的に誕生したと言えそうです。
「静かな退職」の世代別の傾向|最早「当たり前」
株式会社マイナビが2025年4月に公表した調査データ(3,000件、20~59歳の正社員の男女)によると、「静かな退職をしているか?」という質問に対して「そう思う」「ややそう思う」と回答した労働者の割合は44.5%でした。
また年代別では以下のように報告されています。
20代の静かな退職の割合

30代の静かな退職の割合

40代の静かな退職の割合

50代の静かな退職の割合

静かな退職は全世代に広がっており、20代の割合が最も多く、50代が続いています。
出典:正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績) | マイナビキャリアリサーチLab
「サイレント退職」「怠業」「バーンアウト」「カタツムリ女子」とは何が違う?
静かな退職という言葉が生まれる前にも、同様の働き方を選ぶ従業員は存在しました。静かな退職と混同されやすい働き方との違いを確認してみましょう。

何が悪い?「静かな退職」が企業に与えるデメリット
静かな退職を行う従業員が増えることで企業が被るデメリットには、以下が挙げられます。
生産性の低下・イノベーションの阻害
静かな退職の従業員は「最小限の仕事」しかせず、積極的な業務の改善や効率化の提案が減ります。結果、生産性やイノベーションといった、組織全体の変革力が停滞して、市場や競合に遅れを取り、業績悪化につながるリスクがあります。
特に知識集約型の産業や技術革新が必要な業界では死活問題となります。
人材流出、採用・教育コストの増大
静かな退職は実際の退職につながる傾向があります。離職が増えれば、採用コストだけでなく、新人教育・OJTなどの負担も膨れ上がりますし、企業イメージも低下します。
また静かな退職は周囲に伝染し、他の従業員のモチベーションを大きく低下させます。結果、優秀な人材の流出や定着率の低下に影響する可能性があります。
管理職と部下の「すれ違い」「学習性無力感」の連鎖
従業員(部下)は「どんなに頑張っても評価されない」「努力しても変わらない」という学習性無力感にますます苛まれるようになります。
一方、管理職や上司にとっても、期待した部下に裏切られたり、指導が改善につながらない、チームのパフォーマンスが低下するなど、部下とのすれ違いはさらに大きくなり、負の連鎖が続いてしまいます。
従業員の末路(従業員におけるデメリット)
企業だけでなく、静かな退職は従業員本人にもデメリットがあると考えられます。
昇進・昇給や重要なプロジェクトへの参加機会が減れば、経済的にも不利になる可能性があります。また成長の実感を持てないことで自己肯定感が下がり、精神的な健康の悪化、ひいては生活の質にも悪影響を及ぼすことがあります。
「静かな退職」のために企業ができる具体的な対策
静かな退職は「従業員の多様な働き方」の一つであり、一概に否定されるものではありません。
しかし上記のようなデメリットもあり、できれば対策したいと考える経営者やマネジメント層もいるでしょう。
前提「静かな退職者」の解雇(クビ)は難しい
日本の法律上、業務命令違反や重大な勤務怠慢がない限り、「自主性がない」「必要最低限しか働かない」といった理由だけで、従業員を解雇(クビに)することは原則できません。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、かつ、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
出典:労働契約法
また「退職勧奨」という従業員に「自発的に退職してほしい」と促す行為もありますが、静かな退職の場合、従業員の「働くことは続けたい」という意思は尊重されなければいけません。
「やる気がないから排除」ではなく、「やる気をなくしてしまう環境や制度・コミュニケーションに課題がある」と考え、会社側による現状の改善が不可欠です。
関連記事:円満に従業員を解雇する方法と手順|法的リスクを抑えるポイント
以下では静かな退職への具体的な対応策、防止策の一例を紹介します。

① 定期的な1on1、対話の促進
従業員の本音を引き出すために、上司と部下が定期的に1対1で面談します。評価面談とは異なるフィードバックの場を設けることで、不安や悩み、キャリアの希望・日々の困りごとまで気軽に話せる機会にします。
信頼関係と心理的安全性を高め、モチベーションやエンゲージメント(強い結びつき)向上につなげます。
② 業務内容・人事評価制度の見直し
「どうせ評価されないから」という従業員への対策としては、従業員の貢献が正当に評価され、明確なキャリアパスを描ける人事制度にすることが大切です。
会社・経営者としては、まずは従業員の頑張りや成果に対して、言葉や態度、待遇などで、相手に伝わる評価を心がけます。
また、従業員の無力感は業務の負担が偏りすぎていたり、適切な役割を与えられていないことが原因になっていることもあります。業務内容や評価制度を見直し、働きがいや成長を感じられる仕組みを再考します。
関連記事:人事評価制度はなぜ必要なのか。作り方や機能させるためのコツを解説
③ 職場環境・マネジメントの改善(管理職向け研修の実施)
静かな退職に対して管理職やマネジメント層が果たすべき役割は大きいです。
「傾聴力」「多様な価値観への理解」「部下の変化を察知する力」「適切な目標設定の方法」など、マネジメントの品質を上げ、すれ違い、放置、強要といった静かな退職の要素を減らしていきます。
④ 従業員エンゲージメント調査やストレスチェックの活用
定期的に従業員アンケートやストレスチェックを実施し、潜在的な不満やストレスを早期に把握して、職場・制度改善のヒントを得ます。
形だけの調査で終わらせないことが大切です。
⑤ 多様な働き方・制度の導入
世の中の変化に対応し、従業員が前向きに働ける要素を増やす施策も効果があります。リモートワーク、フレックス、時短勤務、副業・兼業など、個々のライフスタイルに応じた多様な働き方を認めることで、従業員の満足度が上がり「静かな退職」状態に陥らないようにします。
⑥ 「静かな採用」、リスキリングの推奨
「静かな退職」への対応策として「静かな採用」という考え方も生まれています。
静かな採用は外部から積極的に雇用せず、既存の従業員に新たな役割を担ってもらったり、スキルを獲得してもらうことで、社内の人材力を活かします。
- 異動や兼務によって必要なポジションを埋める
- リスキリングや研修で即戦力になってもらう など
静かな採用はコストやリソースの有効活用という側面もありますが、従業員のモチベーションや活躍の機会を増やす活性策とも言えます。
関連記事:人的資本経営とは?を簡単に解説。経営・人材戦略を連動させる具体的な進め方
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