社員・従業員が逮捕されたときに会社がすべき対応。広報、休職、給料、解雇など
できれば避けたい事態ですが、従業員の逮捕はどの企業にも起こりえます。
信頼していた社員が逮捕されるという予期せぬ事態に直面すると、経営者や人事労務担当者は冷静な判断が難しくなるものです。そのため、日頃から万が一の事態を想定して準備しておくことが重要です。
【この記事でわかること】
- 社員が逮捕された後の流れ
- 会社が行うべき初動対応
- 当該社員にかかわる実務(休職、給与、解雇など)
目次
社員が逮捕されたらどうなるのか
社員・従業員が逮捕されたとき、会社には素早い対応が求められます。特に経営者や人事・広報担当者は基本的な流れを押さえておく必要があります。
逮捕後の流れ(最長23日間の身柄拘束)

多くの場合、会社へ直接警察から連絡があることは少なく、家族などからの連絡で逮捕が発覚することが多いです。
まず警察による逮捕後、48時間以内に被疑者を釈放するか検察官に送られるか(送検)判断されます。
検察官は被疑者の身柄を受け取ってから24時間以内(逮捕から72時間以内)に勾留(身柄を拘束すること)を請求するかどうか判断します。
検察官が勾留を請求した場合、裁判所は10日間の勾留を命じて、検察官の請求でさらに10日間、勾留できます。この間に検察官は事件を起訴する(刑事裁判にかけること)かどうかを決めます。
逮捕から起訴・不起訴が決まるまでの最長23日間の捜査段階では、弁護人以外の外部との連絡や面会が制限されるため会社が本人から話を聞けないことがほとんどです。
被疑者が起訴されると裁判が始まり、原則として裁判が終わるまで身柄の拘束が続きます。
会社が取るべき初動対応
社員・従業員が逮捕されたとき、事業者側が取るべき初動対応は以下のとおりです。
- 正確な事実関係の把握
- 業務の緊急的な引き継ぎ
- 外部公表とお詫びリリースの判断
正確な事実関係の把握
正確な事実の把握は早まった判断や誤解によるトラブルを防ぐために重要です。
家族や警察から丁寧に事実を確認します。
【確認事項】
- 今後の手続きの見通し
- 逮捕の事実確認
- 逮捕日時
- 容疑内容と業務の関連性の有無
- 本人の状況(逮捕・勾留・起訴等)
- 身柄が拘束されている警察署
現時点で何が分かっていて、何が分かっていないのかを明確に分けて管理します。
この段階で知り得た内容は必要な管理職や担当者にのみ共有し、当該社員のプライバシーや名誉を傷つけないことに注意します。
業務の緊急的な引き継ぎ
当該社員が業務に従事できないことによる社内の混乱を最小限に抑えるための対応を行います。
- 担当していた業務を他の従業員に割り振る(重要な取引先、案件を優先)
- 必要な範囲で当該社員が出社できないことを伝える
社内で不安が広がらないように、必要な範囲で「担当者が当面不在になる」旨を共有します。
外部公表と「お詫び」リリースの判断、マスコミ対応(雛形)
逮捕の事実を外部に公表してお詫びのリリースを行うかどうかは、企業の信用や社員の人権にも関わるため、慎重な判断が求められます。
| 公開/非公開 | 状況例 |
|---|---|
| 公表 | ・すでに逮捕が報道され、公の事実となっている ・取引先・顧客に直接影響が出ている ・社会的責任を問われる上場企業 など |
| 非公表 | ・報道されていない ・私生活上の軽微な事件で業務に影響がない |
一般的な会社では積極的なリリースは不要です。
報道などで逮捕の事実が公然となっており、取引先や関係者への影響が避けられない場合は、事実を簡潔に伝えて、謝罪の意思を表明する方が良いでしょう。ただしこの場合は無罪推定の原則を尊重し、最小限の公表に留めます。
【リリース文例】
◯◯年◯◯月◯◯日、株式会社〇〇(以下「当社」)の社員が◯◯の容疑で◯◯警察署に逮捕されたと発表がありました。
このような事態に至り、お客様や株主などの皆さまに多大なご心配とご迷惑をおかけすることになったことを心よりお詫び申し上げます。
現時点で当社が把握している事実は以下の通りです。
- 逮捕者:当社社員
- 逮捕容疑:〇〇法違反の疑い
- 会社対応:当社は事実関係を厳正に確認し、社内規定に基づき適切に対応いたします。
- 今後の対応:警察の捜査に全面的に協力し、関係者の皆様にこれ以上のご迷惑をおかけしないよう努めてまいります。
今回の事態を重く受け止め、再発防止に向けたいっそうの取り組みを実施してまいります。
【本件に関する問い合わせ】
株式会社◯◯ 広報部 00-0000-0000
逮捕された従業員への対応
以下では人事労務業務を中心に、逮捕された社員・従業員にかかわる実務的な対応をまとめます。
休職・自宅待機命令
「休職」は社員の逮捕にかかわる刑事手続きを理由に、一定期間は労働契約は継続するものの、勤務を停止する状態を指します。
当該社員を休職させられるかどうかは就業規則の規定に基づきます(起訴休職)。就業規則に定めがあることに加え、企業の対外的な信用の失墜や職場秩序の維持に支障になるなどの理由が必要で、起訴休職はあくまで暫定的な措置です。
また身柄の拘束が解かれても、社内調査や処分決定までの間、職場秩序を維持するために会社が一時的に自宅待機を命じることもできます。自宅待機は、会社の「業務命令」の1つであり、就業規則に定めがなくても有効です。
関連記事:【基礎】就業規則の作り方を丁寧に解説
給与・賞与の支払い
起訴休職の期間は当該従業員は労務の提供ができませんので、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づいて、賃金を支払う義務はありません(就業規則の規定によります)。ただし、従業員本人や弁護人を通じて有給休暇の取得申請があった場合は、原則として認める必要があります。
また賞与は、就業規則や賃金規定に「賞与の算定対象期間に休職期間を含めない」などのルールがあるかどうかで判断します。
一方で自宅待機命令は業務命令のため、賃金・賞与の支払い義務が発生することが多いです。こちらも社内の規定によります。
社会保険料の扱い
逮捕・拘留中でも労働契約が継続している場合は社会保険の被保険者資格は原則として維持されます。
しかし、給与が発生しない場合は社会保険料を天引きできないため、「健康保険法第118条該当・不該当届」などの書類を年金事務所に提出する必要があります(5日以内、電子申請可)。
手続きをすると本人への保険給付は停止され、保険料は徴収されなくなります。家族などの被扶養者は本人が解雇などで被扶養者の資格を失わない限り、健康保険を利用できます。
復職判断
逮捕はあくまで身体拘束の手続きであり、罪の確定ではありません。したがって、釈放されて勤務可能な状態であれば、本人の意向を確認して、復職させることが原則です。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 不起訴、嫌疑なしで釈放 | 犯罪が立証されていないため、基本的に復職させる |
| 起訴されて有罪判決 | ・業務に関連した犯罪なら解雇も合理的とされる ・私生活の軽微な犯罪の場合は解雇できないことも多い |
懲戒処分
「懲戒処分」は会社が社員の規律違反や不祥事に対し、就業規則や社内ルールに基づいて科すペナルティです。「戒告」「減給」「降格」「出勤停止」「懲戒解雇」などがあります。
逮捕が直ちに懲戒処分できる理由にはならず、刑事処分の結果(不起訴・有罪判決など)を待ち、判断する必要があります(労働契約法第15条)。
- 会社の業務や信用にどの程度悪影響を与えたか
- 起訴・有罪となった内容と会社業務との関係性
- 世間や取引先への影響
などを加味し、会社の規程や法令に照らして、懲戒処分を行うか判断します。私生活での犯罪は原則、懲戒できません。
解雇・退職の検討
原則、社員が逮捕されてすぐに解雇することは法律上認められていません。
日本では「解雇権濫用法理(労働契約法第16条)」により、解雇が厳しく制限されています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、かつ、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
出典:労働契約法
解雇が認められるケースには
- 業務に重大な支障が生じたり、会社の社会的信用が大きく失われた場合
- 業務上の犯罪や、社会的に大きな問題となった場合
- 長期にわたり身柄拘束が続き、復職の見通しが立たず業務に多大な支障が生じる場合(普通解雇)
などが想定されます。
また不当な解雇を避けるためには退職勧奨(話し合いによる合意退職)や自己都合退職といった方法も選択肢に入ります。しかしこの場合も会社側から一方的に退職を強いることはできず、本人の納得や意思確認が前提です。
関連記事:円満に従業員を解雇する方法と手順|法的リスクを抑えるポイント
退職金
懲戒解雇の場合、就業規則に「退職金を減額または不支給とする」旨の規定を設けている企業は多いです。しかし、退職金は会社で働いた「功労」や「賃金の後払い」といった性質があり、逮捕されたからといって、全額不支給にできるわけではありません。
社内規定で定められていることが前提であり、かつ犯罪の内容や会社への損害の度合いを踏まえて減額や不支給を検討します。
ただし過去の判例では懲戒解雇が有効とされた事案でも、退職金の支払いが命じられたケースもあります。また有罪判決が出る前に従業員から自己都合退職を申し出た場合は、懲戒解雇ができず退職金を支払わざるを得なくなることもあります。
従業員への損害賠償請求
犯罪や違法行為が与えた会社・取引先などへの損害の度合いによっては、会社はその従業員に損害賠償請求をすることも視野に入ります。
賠償請求は、会社が具体的な損害額とその原因・因果関係を証明する責任があり、決して簡単なことではありません。横領や背任など犯罪行為が直接的で明確なケースは認められることもあります。
損害賠償請求の可否や妥当性は状況によって異なりますので、専門家(弁護士)に必ず相談しながら進めます。
不測の事態に備えて会社がすべきこと
社員・従業員の逮捕はどの会社にも起こり得ることです。事前に事業者側が備えておくべきことをまとめます。
- 想定されるリスクの理解とマニュアルの策定
- 就業規則等の社内規定の整備
- 外部の専門家との連携
想定されるリスクの理解とマニュアルの策定
社員や従業員が逮捕されることによる会社の主なリスクは以下のとおりです。
- 企業イメージの悪化・失墜
- 売上、取引への悪影響
- 担当者の業務が止まることによる関係者・他の社員への負担増や混乱
- 会社が第三者から損害賠償請求や責任追及を受けるリスク(使用者責任等)
- 感情的な処分による従業員からの訴訟や労働審判で多額の賠償
- 従業員の連鎖的な退職 など
どういったリスクがあるのか理解し、初動対応や危機管理マニュアルを作成しておきます。
就業規則などの整備
この記事で繰り返し紹介したとおり、就業規則を始めとした各種社内規定への記載内容は逮捕された従業員への対処判断に大きく影響します。この機会に改めて就業規則の内容を確認し、現行の規定が想定され得るリスクに対応できるよう、整備しておくことが重要です。
【見直しが必要な規定例】
- 就業規則
- 賃金規定
- 懲戒規定
- 退職金規定
外部の専門家との連携
不測の事態が起きたときは冷静な判断や行動が難しくなるものです。また速やかな初動対応や公表の可否、懲戒処分の判断、労務管理、損害賠償請求など、複雑で専門知識が必要な場面も多く発生します。
顧問弁護士や社会保険労務士、危機管理コンサルなど、平時から信頼できる専門家と関係を築き、スムーズに相談できる体制を整えておきましょう。
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まき社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士 牧 あや
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