給与計算代行とは?依頼できること、委託先と選び方を解説

給与計算は管理部門の中での重要度が高い業務です。担当者には労力的、また精神的な負担になることが多く、昨今では給与計算を外部に委託する企業が増えています。
【この記事でわかること】
- 給与計算代行ってどんなサービス?何を依頼できる?
- 委託するメリットとデメリット
- どれくらいの費用がかかるのか
- 委託先はどう選べばよいのか
業務効率化の一環として、給与計算代行を検討する一助になれば幸いです。
目次
給与計算代行とは
近年の労働者不足や生産性向上のための手段として、自社の給与計算の業務を外部の専門家に委託する「給与計算代行サービス」を使う企業が増えています。
従業員の勤怠情報をもとに毎月の給与を計算することをはじめ、給与の振込手続きや年末調整、社会保険の手続きといった周辺業務まで依頼できます。
給与計算代行の利用実態

日本では2014年の時点で約20%の企業が給与計算代行を使用していたとの報告があります。また2017年にアソウ・アカウンティングサービスが取引のある250社に行った調査によれば、約35%の企業が給与計算を専門家へ委託しているとしています。
参照:250社に聞いた、給与計算アウトソーシング代行の実状|アソウ・アカウンティングサービス
上記の調査によると以下の傾向がわかります。
- 規模が大きい余裕がある企業ほど、自社社員(もしくは派遣社員)が給与計算している
- 従業員数が増えるほど、税理士・社労士よりも専門業者に依頼する率が高くなる
- 従業員50名以下の中小企業では「社員が計算」と「税理士・社労士に委託」が半々
またこれまで日本では社内の人事情報を外部に出すことに抵抗がある企業が多かったのに対して、欧米では半数以上の企業がすでに給与計算を外注し、業務を効率化しているとされています。
人事・総務関連業務アウトソーシングの市場規模は、右肩上がりで拡大していること、また、雇用が流動化しており担当者の離職リスクが大きくなっていることなどからも、今後も給与計算代行がさらに広がっていくことは確実と言えそうです。
参照:人事・総務関連業務アウトソーシング市場に関する調査を実施(2024年)|矢野経済研究所
給与計算代行の依頼先
給与計算の委託先には、主に「社会保険労務士」「税理士」「専門業者」があります。
委託先 | 特徴 |
---|---|
社会保険労務士 | ・労務管理や社会保険手続きも一括して依頼できる ・深い知識があり、確実な法令遵守が期待できる ・労務トラブルの予防や解決も得意 ・税務計算は依頼できない(税理士の独占業務) |
税理士 | ・年末調整、源泉徴収票の作成なども依頼できる ・税務相談、経営アドバイスを受けられることもある ・税理士によって専門性(強み)が異なる ・社会保険の手続きはできない(社会保険労務士の独占業務) |
専門業者 | ・効率的なシステムでコストを抑えつつ外注できる ・定型作業に特化しており、迅速で正確な対応が期待できる ・複雑な個別ケースへの対応が難しいことがある |
ちなみに「給与計算の外注って違法なの?」との質問がよくありますが、結論、違法ではないので、安心してください。
給与計算を代行するのに特別な資格は不要です。業務を行うだけの専門知識があれば対応できます。
ただし上記の表のとおり、社会保険労務士と税理士にはそれぞれに独占業務があります。社会保険労務士や税理士が在籍していない業者が、社会保険の手続きや年末調整などの作業を代行することは違法です。
給与計算代行で依頼できること
給与計算業務のうち、主に以下のようなことを委託できます。

給与計算
給与計算代行のメインの業務です。提供されたタイムカードや勤怠ソフトの情報をもとに、従業員が働いた分の給与を計算します。
給与計算前の勤怠情報の集計から行ってくれたり、給与明細の作成など付随する業務に対応している業者もあります。
賞与計算
年に数回支給されるボーナスの計算を行います。就業規則にもとづき、定期賞与、決算賞与、役員賞与などの金額を計算します。
振込データ作成、振込業務
給与計算や賞与計算にもとづき振込データを作成します。
さらにオプションとして従業員の口座へ振込まで行ったり、税金の納付を行う業者もあります。
社会保険の手続き
中小企業では経理担当が担うことも多い社会保険に関する手続きを代行します。加入・脱退手続き、月額保険料の変更、育児休業・介護休業の給付金などの業務に対応します。
※ 先述のとおり、社会保険に関する手続きは社会保険労務士の独占業務です。依頼する際は社会保険労務士が在籍していることを確認するようにしましょう。
年末調整
従業員の税金を確定させる年末調整は、年末から年始にかけて業務が集中します。「申告書の配布・回収」「税額の計算」「還付・追加徴収の手続き」「源泉徴収票の発行」など、多岐にわたるこれらの業務を外注できれば、負担の大幅な軽減になります。
また年末調整の業務をスポットで代行する業者もあります。
※ こちらも先述のとおり、年末調整の業務には税理士にしか対応できないこともあります。
住民税(特別徴収)に関する業務
住民税の以下の業務に対応します。
- 給与支払報告書の提出(1月末)
- 特別徴収税額の決定通知(5月)
- システムへの住民税の反映(年度更新、6月頃)
- 住民税の天引き
- 住民税の納付
住民税にかかわる作業も1月や5月などに集中することから、外部へ委託することは有効です。
※ 「住民税の特別徴収切替手続き」など一部の業務は、税理士の独占業務に定められています。
その他(福利厚生、人事管理、就業管理など)
以下のような業務の代行サービスを提供している業者もあります。
- 福利厚生制度の管理
- 人事管理
- 就業管理
- 人事労務のコンサルティング など
このように給与計算にとどまらず、人事労務にかかわる業務全般に対応する業者が増えています。
給与計算代行のメリット・デメリット
給与計算業務を外部に依頼するメリットとデメリットを確認しておきましょう。
メリット
- 最終的なコストを削減できる
- 法令改正に確実に対応できる
- 他の業務にリソースを割ける
- 繁忙期でも現状の人員で対応できる
- 担当者の退職リスクに備えられる
給与計算代行を依頼することで別途コストはかかりますが、担当者の空いたリソースを他の利益を生み出す業務に充てることで、結果的にコストの削減、収益の拡大につなげることができます。また業務が集中する繁忙期でも、人員を増やすことなく既存のスタッフだけで対応できるようになります。
さらに昨今は雇用の流動化が進んでいます。専門性の高い職員が急に離職して業務が滞ってしまうといったリスク対策にもなります。
デメリット
- 社内にノウハウが蓄積されない
- すべての業務を手放せるわけではない
- 人件費以外のコストがかかる
給与計算代行を利用することで、社内に専門的なノウハウが蓄積されにくくなります。外部への依存度が高まることで、急な問題が発生したときに、迅速に対応できなくなる可能性もあります。
まずは自社内で対応できる知識や体制を整え、それでも外部の力を借りることにメリットがあると判断したときに、外部委託を検討するのが良いでしょう。
給与計算代行の費用相場
給与計算代行の費用は委託先、従業員数、業務範囲、利用するシステムなどの条件で大きく異なります。
前提とし従業員数に応じて基本的な費用が決まります。

上記の金額に加えて、年末調整や社会保険の手続きなどを追加すると、費用も加算されていくというパターンが多いです。
また委託先ごとの料金の傾向は以下のとおりです。
- 社会保険労務士
社会保険の手続きや労務管理まで含めると、料金が高くなる傾向にある。顧問契約をすることで割安に依頼できることもある - 税理士
給与計算だけなら安くなることがある。ただし社会保険手続きなどを依頼したいときは、別途、社会保険労務士との契約が必要になる - 専門業者
システム化が進んでおり、比較的安くサービスを受けられることが多い。従業員数が多い企業にとってはコストパフォーマンスが良い
※ まき社会保険労務士事務所では月額2万円から給与計算を承っております。
給与計算代行の選び方
給与計算代行の委託先を検討する際、どのような観点で検討すればよいのかお伝えします。
自社の規模や従業員数
冒頭の「利用実態」でも見たように、従業員が少ない企業(10人未満など)では、社会保険労務士や税理士に依頼することが多く、50人を超えるような規模になってくると専門業者に依頼するのが一般的です。
従業員数が多くなると、計算作業が煩雑になるため、専用のシステムを持つ業者の方が、効率よく作業を進められます。
依頼したい業務に対応できるか(実績、専門性)
依頼したいのが給与計算だけなのか、年末調整や社会保険の手続きなどの業務も依頼したいのかを整理した上で、その業務に対応できる委託先を選ぶことが大切です。
専門的な知識を持っているか、過去に同様の実績があるか、といった点に注目して検討してみてください。
対応しているシステム・ソフト
自社で使用している給与計算ソフトと連携できるか、または業者が提供するソフトで自社のニーズに対応できるかを確認します。
最近は給与計算にクラウド型のサービスを利用する企業も増えています。委託先によって対応しているサービスが異なります。
自社独自の事情に柔軟に対応できるか
特定の業務を重点的に依頼したい、急な業務量の増加に対応してほしい、といった個別ケースに対応できるかも確認したいポイントです。
柔軟性といった点では、企業と密な関係を築きながら業務を進める税理士や社会保険労務士に分があるかもしれません。また地元の税理士・社会保険労務士は地域特有の事情にも精通しており、より細かいサポートを受けられる可能性があります。
一方で専門業者でも、カスタマイズした独自のプランを提供してくれることもあります。
ここまでの情報をまとめます。

給与計算代行の流れ
最後に給与計算を外部に委託する際の全体像を掴んでおきましょう。
- (依頼者が)勤怠情報などを提出
- 勤怠情報などの情報を入力
- 給与計算(残業代、手当、控除などの算出)
- 給与明細、明細データの作成
- 給与振込(オプションのことが多い)
- 必要に応じて依頼者からフィードバック
大切なのが、最初から完璧な成果を求めるのではなく、適宜、フィードバックを行うことです。問題や改善を希望する箇所を伝え、徐々に給与計算の精度を高めていく意識を持つのが良いでしょう。その方が結果的に効率よく業務を委託できるはずです。
また委託先との定期的なコミュニケーションを心がけることで、例えば法改正などにも速やかに対応することができます。
岡山で給与計算代行について相談するなら、まき社会保険労務士事務所へ
岡山市のまき社会保険労務士事務所では「お客様の悩む時間をゼロにしたい」という思いのもとで、社会保険等届け出・就業規則の作成・給与計算・助成金等の申請を行っています。
「気軽に相談できる身近なパートナー」となるべく、可能な限りサポートさせていただきます。岡山市周辺の方はもちろん、全国オンライン対応しておりますので、ぜひお問い合わせください。
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まき社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士 牧 あや